フィンランド症候群

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生活習慣と心の状態の病気への影響を語るのに、はっきりしておいた方がよいものがあります。それは、日本ではフィンランド症候群と呼ばれるものです。症候群と言ってもそれは、病気ではありません。フィンランドで行われた介入調査の結果のことを述べています。この結果がユニークであったため、いろいろなところで引用されますが、正確に引用しているものがあまり見当たらないため、病気の予防をするという立場からその内容をまとめます。詳細は、最下部の論文を参照してください。

まとめ

 

調査内容

フィンランドにおいて、1974年心臓疾患による死亡への予防的介入の有効性を調べるためランダムに振り分けられた介入群(612)とコントロール(610)群を1919-1934年生まれの平均48歳の会社役員で、何らかの心臓疾患の危険因子を持つがまだ発病していない人を対象に定期的な健康診断、生活習慣の指導、必要に応じてのβアドレナリン拮抗薬、高血圧用利尿剤、高脂血症治療薬の投与の5年間の介入とその後21年間のモニター、計26年間にわたって行われました。


調査結果概要

介入群の方がコントロール群より心臓疾患による死亡率が高かった。

 

この生活習慣の指導に禁煙、禁酒が含まれていたため、その正確な内容を伝えることなく禁煙、禁酒に意味がないような論調をしているものをフィンランド症候群と言います。

 

これは、内容を正確に伝えていない故のことですが、その結果は予防、それへの心の関与と言う面では興味深い内容となっています。

 

結果詳細

冠動脈心疾患(かんどうみゃくしんしっかん)による死亡者(18年間の合計)

介入群 610名中39(1000人中63.7)

対照群 612名中19(1000人中31.1)

全死亡者数(18年の合計)

介入群 610名中95(1000人中155.2)

対照群 612名中65(1000人中106.6)

 

喫煙によるリスク比

介入群 1.53

対照群 2.78

 

18年間の冠動脈心疾患による死亡者および全死亡者数は、確かに介入群の方が多くなっています。一方、喫煙に対しては明確にその死亡リスク(介入群で1.53倍、対照群で2.78)を上げることが分かります。飲酒については明確なデータが示されていません。

 

考察

さてこれをどのように受け取ればよいでしょうか。

定期的な健康診断や生活習慣の指導は、マイナスの効果を及ぼすのでしょうか。

残念ながらこれだけでははっきりとは言うことが出来ません、その要因が多すぎるからです。この結果を受けての追加試験が期待されるところです。

可能性として考えられるのは、

1)介入として用いた様々な薬剤が影響した。

2)生活習慣等を制限されたことによるストレス、定期的な健康診断などによるストレスなどいわゆるプラシーボ効果がマイナス方向に出た。

 

いずれにしても喫煙は、大きく死亡リスクに関係がないとの結果にはなりません。



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調査詳細

目的

循環器系疾患のリスク要因と予防効果を予防介入ありとなしの患者の死亡率の1974-1992の追跡調査で解析する


サンプル設定


1919年から1934年生まれのヘルシンキ(フィンランド)在住の循環器系疾患のリスク要因の情報のある男性会社役員3313名の中から、何らかのリスク要因を持つが発病には至っていない1222名を、ランダムに介入群(612)と対照群(610)に分け、5年間の介入とその後の追跡を行い、19921231日時点でその死亡者数を比較した。

結果

冠動脈心疾患(かんどうみゃくしんしっかん)による死亡者(18年間の合計)

介入群 610名中39(1000人中63.7)

対照群 612名中19(1000人中31.1)

全死亡者数(18年の合計)

介入群 610名中95(1000人中155.2)

対照群 612名中65(1000人中106.6)

介入群、対照群を合わせた心臓疾患による死亡者数は喫煙の有無、血圧、そしてコレステロール値と強く相関しており、ガンによる死亡は喫煙による有無のみに相関している。

考察

介入

死亡者数はランダムに割りつけた後の実際のカウント数であるので、ある程度信頼が置けると思われるが、この介入の仕方の判断がかなり難しい。介入方法は、

1)5年間4カ月ごとに健康診断と生活習慣の指導

2)ダイエット指導、禁煙アドバイスなどの生活習慣の改善指導

3)必要に応じての薬剤投与、その薬剤はβアドレナリン拮抗薬(非選択的β遮断薬) プロプラノロールまたは(ISA+非選択的β遮断薬)ピンドロール、 (チアジド系利尿薬) ヒドロクロロチアジド塩化物、高血圧()用カリウム保持性利尿薬、 (高脂血症治療薬:抗酸化薬)プロブコール、(高脂血症治療薬;フィブラート系) クロフィブラート

この介入群の死亡率が高いのは何から来るのでしょう。

この研究は多くの要因を一度に行ったために次の研究のための指針としかならないのですが、考えられることは、

1)介入として用いた様々な薬剤が影響した。

様々なリスク要因を下げる薬を投与しています。その投与が影響していく可能性は排除できません。しかし、どれか一要因に限った追加研究が待たれます。

2)生活習慣等を制限されたことによるストレス、定期的な健康診断などによるストレスなどいわゆるプラシーボ効果がマイナス方向に出た。5年間4カ月ごとに、病院に行き、健康診断を行い、生活習慣の指導を受けるわけです。病気に行けばネガティブな気持ちになることも多いでしょう。また、生活習慣の改善の精神的プレッシャーもかかるでしょう。その影響が出た可能性は考えられます。しかし、これもどれか一要因に限った追加研究が待たれます。また、禁煙、節酒の指導は行ったがあまり成果が得られず、次のようであったと述べています。

http://homepage3.nifty.com/tobaccobyo/figure/F16_4.gif

タバコ病辞典サポートページより引用
http://homepage3.nifty.com/tobaccobyo/figures16.html

 

多変量解析

“心臓疾患による死亡者数は喫煙の有無、血圧、そしてコレステロール値と強く相関、ガンによる死亡は喫煙による有無のみに相関している。”の部分に関しては、表2の様な結果を述べていますが、Cox比例ハザードモデルでも述べたように、多因子を一気に解析しており、しかも相関が考えられる項目も多くあり、さらにどの要因も対照群にも介入群にも関係がありますので、せいぜい参考程度にしかなりません。年齢を要因に入れていますので、他の多くの要因がそれに影響されます、また喫煙有無と1時間ブドウ糖負荷試験のリスク比の対照群と介入群の差が大きすぎます。ただ、喫煙の影響に関しては下に述べるように別の追跡調査をしていますのでそちらの結果より影響が大きいと言えると思われます。

 

ここでリスク要因とされているのは

1)血清コレステロール値

2)血清トリグリセリド値

3)最高血圧 > 160 mm Hg

4)最低血圧 > 95 mmHg

5) 喫煙 > 一日10

6) 体重120% 以上

7) 1時間ブドウ糖負荷試験> 9.0 mmol/liter

 

表1 対照群、介入群それぞれの死亡原因別1000当たりの死亡者数(カッコ内は実死亡者数)

対照群                介入群

                           (n = 610)           (n = 612)

死亡原因

冠動脈心疾患(かんどうみゃくしんしっかん)

31.1 (19)           63.7 (39)

虚血性脳卒中

3.2 (2)                0 (0)

頭蓋内出血

6.6 (4)                3.3 (2)

くも膜下出血

0 (0)                   0 (0)

その他の心血管の疾病

1.6 (1)                1.6 (1)

新生物、腫瘍

47.5 (29)           44.1 (27)

不慮の死計

1.6 (1)                26.1 (16)

事故

1.6 (1)                21.2 (13)

自殺

0 (0)                   3.3 (2)

殺人

0 (0)                   1.6 (1)

その他

13.1 (8)              14.7 (9)

不明

 (1)                    (1)

合計

106.6 (65)         155.2 (95)

 

2 コックス比例ハザードモデルに基づく相対リスクとその95%の信頼区間

項目                                  対照群                   介入群

年齢                                  1.70 (1.21 - 2 37)    1.19 (0.92 - 1.53)

体重                                  0.82 (0.49 - 1.37)    1.24 (0.85 - 1.18)

最高血圧値                       1.18 (1 00 - 1.40)        1.02 (0.88 - 1.19)

コレステロール値            0 97 (0.79 - 1.18)        1.08 (0.92 - 1.27)

喫煙有無                          2.78 (1.62 - 4.77)     1.53 (1.02 to 2 30)

1時間ブドウ糖負荷試験     1.01 (0.10 - 10.6)    16.0 (2.53 to 100.9)


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禁煙に関する調査

この調査は参考文献3に述べられており、その内容は今までとほとんど同じですが、別途喫煙の有無とhealth-related quality of life (HRQoL)と死亡率の関係のみを調査しています。

調査内容

ヘルシンキ在住の19191934年生まれの会社役員1658名を1974年に健康であることを条件に、リスク要因と喫煙の有無を調査して上で選定し、26年間のフォローアップの上、2000年にそのHRQoLと生存を1974年時点での喫煙調教を基に調査いています。HRQoL は、RAND 36項目健康調査に基づき判断しています。

結果)

全く煙草を吸わない614名は、ヘビースモーカー(一日20本以上)188名に比べ平均10年長生きしています。

Cover

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=414522

(より転写)

1974年時点の喫煙状況(喫煙経験なし、禁煙に成功、一日1-10本、一日11-20本、一日20本以上)26年間のフォローアップ期間の死亡率の関係。矢印が、喫煙経験なしグループの26年後の生存率と同じ生存率の一日20本以上のグループの経過年数(16)。その差が10年なるとしている。

 

また、HRQoLのスコア値も大きく差が出ていると述べています。

 

Cover

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=414522

(より転写)

2000年時点でのRAND36項目健康調査に基づく健康に関する生活の質との関係。それぞれの項目は、BP、痛み;  GH, 全体的健康観;  MH, 精神状態;  PF, 身体機能;  RE, 精神機能の障害による役割制限(過去1カ月間の心理的な理由による仕事や普段の活動の制限の有無について);  RP, 身体機能の障害による役割制限(過去1カ月間の身体的な理由による仕事や普段の活動の制限の有無について);  SF, 社会機能の制限(過去1カ月間の身体的または精神的な理由による社会的な活動の妨げの有無について);  VT, 活力

 

考察

生存率の変化はかなり明確に生存曲線で差が表れていると思われます。

健康面に関する生活の質の効果も1974年時点の一点の喫煙状況と比較していますが、傾向ははっきりと出ているのではないかと思います。

これにより、先に述べましたように、喫煙状況の心臓疾患による死亡者数及び、そのリスク要因への影響は大きいと言えると思います。

 

参照文献

1. Strandberg TE, Salomaa VV, Naukkarinen VA, Vanhanen HT, Sarna SJ, Miettinen TA. Long-term mortality after 5-year multifactorial primary prevention of cardiovascular diseases in middle-aged men. JAMA. 1991 Sep 4;266(9):1225-9.

2. Strandberg TE, Salomaa VV, Vanhanen HT, Naukkarinen VA, Sarna SJ, Miettinen TA. Mortality in participants and non-participants of a multifactorial prevention study of cardiovascular diseases: a 28 year follow up of the Helsinki Businessmen Study. Br Heart J. 1995 Oct;74(4):449-54.

3. Arto Y. Strandberg, MD; Timo E. Strandberg, MD, PhD; Kaisu Pitkälä, MD, PhD; Veikko V. Salomaa, MD, PhD; Reijo S. Tilvis, MD, PhD; Tatu A. Miettinen, MD, PhD, The Effect of Smoking in Midlife on Health-Related Quality of Life in Old AgeA 26-Year Prospective Study

Arch Intern Med. 2008;168(18):1968-1974.

 



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