がん予防に関する一考察

 

がん予防の必要性が語られるようになってかなりたちますが、現状これはという方法があるわけでなく、早期発見のみが高らかに語られ、それが唯一の方法であるかがごとく言われています。そして、早期発見を目的とした検診の必要性がやけに強調されています。しかし、様々な検診も大規模コホート研究が出始めると必ずしも、死亡率を下げるわけではないことが分かり始め、その有効性に疑問がもたれるようになってきています。

一方、割合は低いですが末期がんの患者が画期的に回復する例があることも事実であります。それを考えるとやはり西洋医学では計り知れない部分に何らかの予防のヒントが隠されているのかもしれません。

そこで、西洋医学、東洋医学その他どのようなことでも境目なく、がんの予防に限って検討を加えてみると意外な事実、方向性が見えてくるかもしれません。対応を考えるにはまずがんをよく理解することが必要です。現在でもその発がん機構には様々な要因が提案され、検証されようとしていますが、いまだに明確なものが理解されたわけではありません。そこで、まず、がんの特徴の整理から始めたいと思います。

 

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がんの特徴

 

がん予防を考える上でがんの特徴をまとめてみます。

がんの特徴は”がんの分子生物学　第2版　L. Pecorino”　1)　によると、次の8項目となっています。

増殖シグナルの自立性

増殖抑制シグナルの回避

無制限増殖脳

血管新生

細胞死の回避

免疫系による破壊からの回避

エネルギー代謝の再構成

腫瘍促進性の炎症

ゲノム不安定性の変異

 

良性腫瘍と悪性腫瘍の分類と特徴

 

かなり難しい特徴が並んでいますが、このような特徴を持ち合わせる腫瘍、つまり悪性腫瘍を特にがんと言っています。腫瘍には、良性と悪性がありその特徴は次のようにまとめられています。

良性　Benign

              周りの組織を侵さない、転移しない腫瘍

悪性　Malignant

              周りの組織に浸潤し、離れた部位に転移する腫瘍　＝　がん

 

腫瘍のもう少し細かな分類は下のようになっています。

腫瘍

良性腫瘍

悪性腫瘍＝がん＝悪性新生物

癌(上皮性)　carcinoma

腺がん adenocarcinoma

肉腫(非上皮性) sarcoma

             

良性腫瘍の分類と特徴

 

まずは、良性腫瘍からまとめてみます。良性腫瘍の特徴は次の様にまとめることが出来ます。

良性腫瘍：benign tumor

全身 (生命) への影響の少ない，発育が膨張性であって，浸潤性でなく，その速度がゆるいか，停止する傾向をもち，転移や再発を起すことのまれな腫瘍をいう。悪性腫瘍の対語。腫瘍実質が上皮性の乳頭腫，腺腫，嚢腫などと，非上皮性の線維腫，筋腫，血管腫，脂肪腫などの2群に分ける。(ブリタニカ国際大百科事典)

 

良性腫瘍の種類

良性腫瘍には種類があり一般的に次の様に分けられます。
　上皮性良性腫瘍・・・扁平上皮乳頭腫，腺腫など．扁平上皮乳頭腫は口腔内などに発生し，腺腫は胃や大腸に発生します．

　非上皮性良性腫瘍・・線維腫，軟骨腫，脂肪腫，血管腫，平滑筋腫など．全身の軟部組織のいずれにも発生します．平滑筋種は子宮に見られるものが有名です．

良性腫瘍の中には悪性腫瘍に変化していくものもあることがことを複雑にしていますが、悪性腫瘍は、端的にまとめると次の様になります。

 

悪性腫瘍の特徴

 
悪性腫瘍は次の様にまとめることが出来ます。

悪性腫瘍：malignant tumor

一般に発育が速く，周囲の組織を破壊し，血液やリンパによって他の場所に転移しやすい腫瘍をいう。上皮系の皮膚，粘膜，腺などから発生するものが癌腫，非上皮系の結合組織，骨，軟骨，リンパ節などに発生するのが肉腫で，両者を合せて一般的に癌と称し，人口動態統計では悪性新生物ともいう。(ブリタニカ国際大百科事典)

 

特徴を二つ挙げるとしたら、浸潤と転移です。悪性腫瘍は、浸潤性に発育するため，腫瘍を切除する場合は大きく切除しなくてはなりません。 また，切除した場合も，体内に取り残すことがあり，取り残した腫瘍が再発をきたします。離れた場所への転移をきたすため，腫瘍発生部位のみを取り除いたとしても，転移部位で増殖し，最終的には全身へ転移し，生命を死にいたらしめることがあります。

ここで、。浸潤性増殖とは次の様な特徴を言います。

    腫瘍細胞が周囲の組織に少しずつ染み込むように増殖する。広い範囲に一様に広がり、周囲組織を壊しながら進行する。周囲に血管やリンパ管があれば、腫瘍細胞はそれらをも破壊し、管の中へ入り込む。

そして、転移とは次の様な特徴を言います。

    何らかの方法で腫瘍が原発部位(最初に発生した部位)を離れ、他の部位(臓器)に到達して、そこで新たに増殖を行うことを転移といいます。血行性転移(血流に運ばれて転移/肺と肝臓におこりやすい)とリンパ行性転移(リンパ管の流れにのって各リンパ節に転移)、播種(体腔において、漿膜の表面に達した腫瘍細胞が内臓の動きに伴い少しずつばらまかれ、広がる)があります。


悪性腫瘍の種類

 

悪性腫瘍にも様々な種類があり、一般的に次の様に分類されます。


　上皮性悪性腫瘍・・・・扁平上皮癌，腺癌，移行上皮癌などがあり、扁平上皮癌は食道，肺，子宮頚部などに，腺癌は胃，大腸などに，移行上皮癌は膀胱などに発生します。

　非上皮性悪性腫瘍・・・線維肉腫，骨肉腫，脂肪肉腫，血管肉腫，横紋筋肉腫などがあり、全身の軟部組織のいずれにも発生します。

　造血組織性腫瘍・・・・リンパ腫，白血病などがあり、リンパ腫は全身のリンパ装置，リンパ節に発生します。白血病は血液の中に発生します。

　胎児性腫瘍・・・・・・奇形腫，腎芽細胞腫，肝芽細胞腫などがあり、奇形種は卵巣に発生するものが有名です．腎芽細胞腫，肝芽細胞腫は小児期に発生する腫瘍です。

腫瘍の特徴の指標

 

悪性腫瘍は進行が増殖、転移によって進行するためその進行度を計る指標があります。

異型度・分化度・悪性度
　異型度・・・異型度とは腫瘍細胞および腫瘍細胞の構成する組織構造の，正常からの隔たりの程度のこと。

　分化度・・・腫瘍細胞が発生した母細胞のもつ特徴をもつ程度のこと。

　悪性度・・・腫瘍の増殖速度が早い，転移しやすい，再発しやすい，死亡率が高いなどという生命予後に対する影響の程度のこと。

転移の種類と特徴


　更に転移にもその特徴によって種類があります。

 

リンパ行性転移・・・腫瘍細胞がリンパ管へ浸潤し，リンパ流れにのって転移すること。頭頚部癌の頚部リンパ節転移，乳癌の腋窩リンパ節転移などがあります。

　血行性転移・・・腫瘍細胞が血管へ浸潤し，血流にのって転移すること。様々な臓器から肝，肺へ血行性転移します．多発することも特徴の一つです。

　播種性転移・・・腫瘍細胞が体腔内に遊離して，ばらまかれ，体腔壁及び多臓器に転移すること。がん性胸膜炎，がん性腹膜炎は播種性転移により生じます。

 

がんの特徴のまとめはこの程度にして、次にがんがどの程度の死亡原因となっているかを少し調べてみます。

 

死亡原因

 

死亡原因のがんはどの程度の割合でしょうか。平成23年（2011）人口動態統計2) によると年代別死亡原因は、次の表のごとくなっています。この値は10万人あたりの死亡率(つまり10万人当たり何人がその原因でなくなるかということ。実際の人数ではなく10万人当たりの割合である為死亡率と呼ばれます)の数字となっております。

 

この中でがんのみを抜き出しますと次の様になります。括弧の中の数字はその年代の死亡原因の中の順位となります。

 

              死亡原因(順位)                 全死亡の中　　　10万人当たり    人口: 千人

　　　　　　　　　　　　　　　　の割合
総　数 悪性新生物(1)                    28.498%               283.1/100,000 127,799

 

0 歳       悪性新生物(5以下)            0?                        ??                        

1～4      悪性新生物(3)                    2.754%                1.9/100000          5,303

5～9      悪性新生物(2)                    13.043%              1.8/100000          5,490

10～14  悪性新生物(2)                    15.323%              1.9/100000          5,912

15～19  悪性新生物(3)                    8.997%                2.6/100000          6,075

20～24  悪性新生物(3)                    7.484%                3.6/100000          6,370

25～29  悪性新生物(3)                    8.745%                4.6/100000          7,219

30～34  悪性新生物(3)                    14.928%              9.3/100000          8,093

35～39  悪性新生物(2)                    20.624%              17.2/100000        9,712

40～44  悪性新生物(1)                    25.368%              31.0/100000        9,315

45～49  悪性新生物(1)                    30.858%              59.0/100000        7,966

50～54  悪性新生物(1)                    37.189%              110.6/100000      7,639

55～59  悪性新生物(1)                    43.835%              199.1/100000      8,320

60～64  悪性新生物(1)                    47.368%              323.0/100000      10,632

65～69  悪性新生物(1)                    46.773%              490.7/100000      7,861

70～74  悪性新生物(1)                    42.490%              672.1/100000      7,184

75～79  悪性新生物(1)                    36.406%              997.2/100000      6,143

80～84  悪性新生物(1)                    28.537%              1401.7/100000    4,494

85～89  悪性新生物(1)                    20.819%              1772.3/100000    2,625

90～94  悪性新生物(3)                    13.919%              2090.2/100000    1,082

95～99  悪性新生物(5)                    9.058%                2286.4/100000    317

100歳

以上"     悪性新生物(5)                    4.869%                2027.7/100000    47

 

このように、がんは死亡の大きな割合を占めており、特に40代からの働き盛りに第一位の原因となっており、しかもその予後(何らかの医学的処置をした後のこと)を悪くする割合が高いためにぜひともその死亡率を減らしたい要因です。

そして、がんの罹患率は次の様になっています。75歳を過ぎると一段とその危険性が増えてきます。

 

部位                     罹患率(％)

              　　75歳まで     生涯：平均寿命                 平均

全体       　　26.564%   40.440%(84歳)               0.6663%/年

男性全部位　31.436%      44.292%(80.21歳)           0.7981%/年

女性全部位　22.070%   35.078%(86.61歳)           0.5414%/年

 

次にがんの予防の考察に移りますが、がんは出来る場所によりかなりその特徴が違っていますので、

がんの予防を考える上でがんの出来る場所により分類してその特徴より予防法を考えてみます。

 

胃がん

 

まず、日本人に特に男性に多い、胃がんから考えてみます。

 

日本消化器学病会2012によりますと、

部位                     罹患率(％)                         死亡率(％)

                            75歳まで            生涯       75歳まで            生涯

男性胃がん          6.0                       10.9       1.8                       4.1

女性胃がん          2.3                       5.5         0.7                       2.0

 

そして明確な危険因子として、　ピロリ菌感染、塩分過剰摂取(6g/日より多い)、能動喫煙、野菜不足、果物不足をあげています。

 

一方、国立がん研究センターがん情報サービスの人口動態統計2) によるがん死亡データ（1958年～2013年）を基に加工しますと、

2011の10万人あたりの胃がん罹患率

 

部位                     罹患率(％)

              　　75歳まで     生涯：平均寿命               平均

全体       　　4.357%      8.136%(84歳)                 0.103%/年

男性胃がん　6.534%       10.0201%(80.21歳)        0.145%/年

女性胃がん　2.322%       5.000%(86.61歳)            0.064%/年

 

前のデータとは少し違いますが、詳細がありますのでこちらを基準としたいと思います。男性の方が女性より2倍程度胃がんにはかかりやすいようです。そして75歳を過ぎるとその割合が上昇し、おおよそ75歳までに罹患する率と、それ以後に罹患する率がほぼ等しくなっています。生涯罹患率で行って男性で10％程度、女性では5％程度です。恐れるような数字ではないと思います。しかし、無視できる数字ではなく、予防ができるに越したことはありません。そこで、まずそれぞれの年代までの罹患率と累積罹患率の詳細をまとめると次の様になります。

 

年来別胃がん罹患率


年齢別胃がん罹患率　2011　10万人あたりの年齢別胃がん累積罹患率 2)

年齢

0-4

5-9

10-14

15-19

20-24

25-29

全体(10万人あたりの累積罹患数)

0.0

0.0

0.0

0.0

0.5

2.5

全体(累積罹患率％)

0%

0%

0%

0%

0.00%

0.00%

男性(10万人あたりの累積罹患数)

0.0

0.0

0.0

0.0

0.5

1.8

男性(累積罹患率％)

0%

0%

0%

0%

0.00%

0.00%

女性(10万人あたりの累積罹患数)

0.0

0.0

0.0

0.0

0.5

3.3

女性(累積罹患率％)

0%

0%

0%

0%

0.00%

0.00%

年齢

30-34

35-39

40-44

45-49

50-54

55-59

全体(10万人あたりの累積罹患数)

6.5

13.5

26.4

55.0

109.3

208.6

全体(累積罹患率％)

0.01%

0.01%

0.03%

0.06%

0.11%

0.21%

男性(10万人あたりの累積罹患数)

4.9

10.4

24.9

57.9

132.5

278.5

男性(累積罹患率％)

0.00%

0.01%

0.02%

0.06%

0.13%

0.28%

女性(10万人あたりの累積罹患数)

8.0

16.7

28.0

52.2

86.1

139.5

女性(累積罹患率％)

0.01%

0.02%

0.03%

0.05%

0.09%

0.14%

年齢

60-64

65-69

70-74

75-79

80-84

85~

全体(10万人あたりの累積罹患数)

363.9

583.5

890.0

1273.3

1694.8

2104.6

全体(累積罹患率％)

0.36%

0.58%

0.89%

1.27%

1.70%

2.1%

男性(10万人あたりの累積罹患数)

514.5

856.8

1349.2

1965.1

2675.6

3383.8

男性(累積罹患率％)

0.51%

0.86%

1.35%

1.97%

2.68%

3.38%

女性(10万人あたりの累積罹患数)

216.9

324.1

469.7

673.0

907.9

1200.8

女性(累積罹患率％)

0.22%

0.32%

0.47%

0.67%

0.91%

1.20%

 

このデータを加工して、その年代以降に胃がんにかかるリスク、つまり例えば５０～５４の人がその後にかかるリスクを計算してみますと次の様になります。　

 

年齢別生涯胃がん罹患リスク


年齢別の生涯胃がん罹患リスクを計算すると

 

年齢

0-4

5-9

10-14

15-19

20-24

25-29

全体(10万人あたりのリスク罹患数)

2104.6

2104.6

2104.6

2104.6

2104.6

2104.1

全体(罹患率％)

2.10%

2.10%

2.10%

2.10%

2.10%

2.10%

男性(10万人あたりのリスク罹患数)

3383.8

3383.8

3383.8

3383.8

3383.8

3383.3

男性(罹患率％)

3.38%

3.38%

3.38%

3.38%

3.38%

3.38%

女性(10万人あたりのリスク罹患数)

1200.8

1200.8

1200.8

1200.8

1200.8

1200.3

女性(罹患率％)

1.20%

1.20%

1.20%

1.20%

1.20%

1.20%

年齢

30-34

35-39

40-44

45-49

50-54

55-59

全体(10万人あたりのリスク罹患数)

2102.1

2098.1

2091.1

2078.2

2049.5

1995.3

全体(罹患率％)

2.10%

2.10%

2.09%

2.08%

2.05%

2.00%

男性(10万人あたりのリスク罹患数)

3382.0

3378.9

3373.5

3359.0

3325.9

3251.3

男性(罹患率％)

3.38%

3.38%

3.37%

3.36%

3.33%

3.25%

女性(10万人あたりのリスク罹患数)

1197.6

1192.8

1184.2

1172.8

1148.6

1114.7

女性(罹患率％)

1.20%

1.19%

1.18%

1.27%

1.15%

1.11%

年齢

60-64

65-69

70-74

75-79

80-84

85~

全体(10万人あたりのリスク罹患数)

1896.0

1740.7

1521.1

1214.6

831.3

409.8

全体(罹患率％)

1.90%

1.74%

1.52%

1.21%

0.83%

0.41%

男性(10万人あたりのリスク罹患数)

3105.4

2869.3

2527.0

2034.6

1418.7

708.2

男性(罹患率％)

3.11%

2.87%

2.57%

2.03%

1.42%

0.71%

女性(10万人あたりのリスク罹患数)

1061.3

983.9

876.7

731.1

527.9

292.9

女性(罹患率％)

1.06%

0.94%

0.88%

0.73%

0.53%

0.29%

2011　年齢別10万人あたりの胃がん生涯罹患リスク率2)

 

これらの値は、あくまで結果です。その要因となるものがわからないと予防を考察することが出来ません。そこで、これを出発点として様々な考察、修正を加えていきたいと思います。

 

胃がん発症要因


日本消化器病学会によりますと、胃がんの要因として指摘されているものは次の要因となります。そしてその中でピロリ菌の感染が最大の要因であるとしています。

 

胃がん発症の要因として指摘されているもの：日本消化器病学会

●ストレス

　ストレスは血液の流れを悪くし，活性酸素を大量に発生させ，胃炎や胃潰瘍の原因となります。これらが繰り返されることで胃壁ががん化する危険性があります。

　

　ストレスが多くいつもいらいらしている人は胃がんになる確率が２倍になるとの研究結果が癌学会で報告されています。

●食塩の過剰摂取

　動物実験などから，胃の中で塩分濃度が高まると粘膜がダメージを受け,胃炎が発生し発がん物質の影響を受けやすくなることが示されています。

　

　厚生労働省の研究では，約４万人の男女を食塩接収量により，５つのグループにわけ１０年間追跡調査し比較したところ，食塩摂取量の最も多いグループは少ないグループに比べ２倍の胃がん発症率を示し，特にたらこや塩辛など高濃度塩分のものを毎日食べる人は食べない人に比べ３倍の発症率を示しているということがわかりました。

●喫煙

　タバコの煙にはニトロソアミンやジベンゾピレンなどの発がん物質が含まれ，これらが胃壁を刺激し，がんの発症を促すと考えられています。また喫煙は活性酸素も発生させます。　喫煙者は非喫煙者と比較すると胃がんの発症率が１．５倍～２倍になります。

●大量のアルコール

　アルコール自体には発がん性はありませんが，量が多いと胃の粘膜を傷めます。そこにタバコの中の発がん物質が作用すると相乗作用でよりがん化のリスクが高くなり，胃の入り口に近い部位のがんに限っては，喫煙者は３倍，さらにアルコールも飲む人は５倍も発症率が高くなります。

●食品添加物・焦げ

　ハムやベーコンの製造に用いられる亜硝酸塩は発がん物質ニトロソアミンを生成させ，同様にニトロソアミンを含む肉や魚の焦げた部分も胃がんを引き起こす要因と考えられています。

●ピロリ菌

　ピロリ菌は日本人では５０歳以上の人の８０％が感染していると言われています。ピロリ菌から分泌される毒素は胃粘膜のタンパクと結合し，粘膜細胞を剥離させます。そこに胃酸が作用し，潰瘍を発生させます。

　この毒素にアルコールが加わると相乗効果で胃壁をがん化させる危険性がさらに高まります。ピロリ菌感染は血液検査でわかり抗生物質で殺せるので，早めに除去しておきましょう。

 

　ただし，ピロリ菌除去は必ずしも万能ではなく，除菌の後に逆流性食道炎などが起こることもあり，医師とよく相談しましょう。

●遺伝子異常

　胃がん患者の６割は細胞の増殖を抑えるブレーキ役の遺伝子に異常があることを，京都大学ウイルス研究所の伊藤嘉明前教授らが発見し報告しています。

　　胃がん患者計４６人から採取した細胞を調べると患者の約６０％で消化酵素の分泌を促す「ＲＵＮＸ３」と呼ぶ遺伝子の活動が停止していました。

　この遺伝子が働かなくなることにより，粘膜細胞が限りなく増殖してしまうことがわかっています。この遺伝子の活動停止をいかにすれば防ぐことができるかが今後の研究の課題です。

以上日本消化器病学会より、

 

ピロリ菌感染の胃がん罹患への影響度

まず、最大要因とされるピロリ菌感染の影響度を見積もってみたいと思います。

ピロリ菌の感染率のデータとして次の様なものがあります。年々、特に若い人の感染率が下がっていますが、決して無視できる値ではありません。


3)

 

この1990年から1995年の上の赤い線に相当する時期に次の様なコホート研究がなされています。4) ピロリ菌感染の胃がんへの影響を調査したコホート研究として最大規模のものであり、この内容より影響度を推論してみます。

 

ピロリ菌感染の胃がん罹患への影響度の調査

 

Sasazuki 等によると4)　1990年と1993年に岩手県二戸、秋田県横手、茨城県水戸、新潟県長岡、長野県佐久、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県中部、沖縄県宮古においてサンプルを採集。合計男性61009名、女性62567名の計123576名のうち、男性47525名、女性52283名、計99808名から質問の返答を入手。そのうちすでにがんに罹患している、日本人でない、引越しているものを除いた、男性46803名、女性50841名、計97644名を選択。2004年12月31日まで追跡。その間に12250名追跡不可能となる。残った85394名の追跡で1681名ががんを罹患。そのうち511名のピロリ菌感染情報を入手(実はこのあたりが明確に書いてなくはっきりしないのですが、特に12250の追跡不明者にがんによる死亡が含まれるのかなど不明です。しかし、条件を固定しないと解析できないため、もっともらしい1681名が85394名の中から罹患したとして解析します)。その内511(M:327, F:169, 40-49:77, 50-59: 235, 60-69:199)名のピロリ菌感染を調べたところ478名からピロリ菌感染を確認しました。(この感染率は上のグラフと年齢を対応させてみますと、理にかなった値だと思われます。)

そして、胃がんの罹患のない残りの人々より、出来る限り511名一人ひとりマッチング(個別マッチング法といわれます、後ほど説明する交絡を減らすために行われます)する511名を選び出しコントロールとして、ネスティド・ケース・コントロールスタディを実施し、ピロリ菌感染によるリスクの増減を解析しています。

まとめ：

サンプリング　1990　or 1993

男性46803/女性50841 合計 97644

12250追跡不能 -> 85394追跡

(追跡不能の男女比が不明)

男性13467/女性23278 合計36745血液入手

胃がん罹患1681/85394 -> 1.9685223%

(罹患の男女比が不明)

              0.1312348%/年 : 131.2348252人/10万人/年

1681名から511を選択(開始時点でのピロリ菌感染情報の得られた人)選択 = 0.303985722

(511名の抽出方法が不明、ピロリ菌感染情報が得られた人を選択したとすると選択バイアスの可能性大)

母集団　85394x511/1681 = 25958 (切り捨て)：以上よりこれを母集団と考えるのが適切。

ネスティドサンプル　      511/511

年齢　57.4

男性　66.8%(511中)

追跡期間15年　1990-2004

A:B:C:D = 20.800: 21.011: 54.307: 3.90246：後ほど説明します。

罹患率　511/25958 ­= 1.968565%

胃がん罹患率(%/年) 0.1312%

 

胃がん罹患オッズ比

 

この研究は、胃がんの罹患あり、なしでサンプリングしていますので、その比率は母集団を反映していません。そこで、リスク比をそのまま求めることはできませんので、オッズ比を求めます。幸いにも胃がんの罹患率が低い(1681/85394)ので、オッズ比はリスク比と近い値となります。その結果は次の様になります。

 

分割表オッズ比

 

分割表を作成すると下のようになります。

 

ピロリ菌感染

ピロリ菌非感染

小計

胃がん罹患

478: a

33: b

511: m1

胃がん非罹患

383: c

128: d

511: m0

小計

861: n1

161: n0

1022: T

分割表のそれぞれの値を表のように名前(a,b等)を付けておきます。

 

こので興味があるのは、相対危険度（relative risk）です。相対危険度は、暴露群(ピロリ菌感染)の非暴露群(ピロリ菌非感染)における疾病の頻度に対する比(発症リスクといわれます)のことです。コホート研究では相対リスクまたはリスク差が一般的に用いられます。一方、症例対照研究では相対リスク：リスク比（risk ratio）が計算できません。これは、リスク比の計算で必要となる、上表でa/n1の比と b/n0の比が、発症あり、なしで別々にサンプリングされそのサンプルサイズの比(上の例ではがん罹患511とがん非罹患511が母集団、一般的には日本人全体、の割合と違うため、その比を取ることに意味がないからです。　つまり、478/861が日本人全体の比と違うということです。　

そこで一般的には、症例対照研究では症例オッズ比（odds ratio）代用されます。本来は、症例オッズ比(上の例ではa/cとb/dの比)も、同じ理由で求めることはできません。しかし、オッズ比には対称性があり、症例オッズ比(a/c:b/d)と暴露オッズ比(a/b:c/d)が結局同じ式(ad/bc)となるため、暴露オッズ比を求め、それを症例オッズ比として使用します。そして、頻度が稀な疾病の場合リスク比はオッズ比で近似できるます。そこで、暴露オッズ比を症例オッズ比とし、症例リスク比である相対危険度として、暴露群の非暴露群に対する発症リスクの比として利用されます。このあたりの有効性も含め検討をして、予防に有効な情報を引き出してみましょう。なお、上の例でも、暴露リスク比つまり、a/m1と c/m0の比は母集団の比を表しているため求めることが出来ます。

 

この分割表から暴露(ピロリ菌感染)リスク比(RRDとします)と求めると、

RRD = (a/m1)/(c/m0) = (478/511)/(383/511) = 1.248

信頼区間CI = RRD x exp(±1.96x√(c/an1 + d/bn0) )

= 1.248 x exp(±1.96x√(383/478x511 + 128/33x511) )

= 1.181/1.319

expは、指数の別記です。つまり、exp(x) = ex のことです。この説明では、exp()の表記を使います。これは、罹患者、比罹患者のピロリ菌感染割合の比のことです。これは値としては正しいのですが、この研究の意図と一致しません。

 

次に、分割表から暴露(ピロリ菌感染)オッズ比を求めると

OR = (a/b)/(c/d) = (ad)/(bc) = (478x128)/(383x33) = 4.841

信頼区間(CI)　

exp(±1.96x√(1/a + 1/b + 1/c + 1/d) )

= exp(±1.96x√(1/478 + 1/383 + 1/33 + 1/128) )

= exp (±0.4056)

= 1.5/0.6667

区間推定 ORx0.667 =3.227< OR=4.841 < ORx1.5=7.262

 

繰り返しになりますが、この分割表から求めていいのは本来この値だけです。これは、暴露オッズ比となります。つまり、疾患のあるグループ内の暴露の割合と疾患のないグループ内の暴露の割合の比、これを暴露オッズ比です。しかし本来知りたいのは発症リスクです。つまり、暴露のある(ピロリ菌に感染している)グループ内での発症(がん罹患)の割合と暴露のない(ピロリ菌に感染していない)グループ内での発症(がん罹患)の割合の比、つまり発症オッズ比のはずです。しかし、先ほど示したように、発症オッズ比と暴露オッズ比は同じ式となりますので、結果が同じなので暴露オッズ比を発症オッズ比と読み替えて使用します。

 

また、分割表の情報量は次の様になります。この情報量の意味するところは、後ほど説明します。

総情報エントロピー: 1.579 (Max. 2)

相互情報エントロピー: 0.0497

疾患情報エントロピー: 0.6284

相互／総エントロピー(％): 3.146

条件情報エントロピー(疾患：胃がん罹患－＞ 暴露：ピロリ菌感染): 0.5788

相互／暴露情報エントロピー(%): 7.905%    92.095

 

分割表リスク比

 

リスク比は、胃がん罹患対胃がん非罹患の比率が母集団を反映していないため、リスク比計算に必要な例えば478/861の様な計算に意味がありません。しかし、計算をすることは出来ますので、後に他の方法と比べるために数値を求めておきます。その場合は上記分割表の行と列を入れ替るのが普通ですので入れ替え再度分割表を作成すると

 

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

478: a

383: c

861: n1

ピロリ菌非感染

33: b

128: d

161: n0

小計

511: m1

511: m0

1022: T

この表から求められる指標は、次の様になります。この計算方法は後ほど述べます。本来求めるべきでない指標は、全体を括弧で囲ってあります。

 

(1.986 < RR = 2.709 < 3.693)         (0.326 < RDリスク差 = 0.350 < 0.376)      

1.181 < RRD = 1.248 < 1.319        0.176 < RDDリスク差 = 0.186 < 0.0194

3.227 < OR = 4.841 < 7.262

(0.454 < 人口寄与割合PARP発症リスク：暴露グループ = 0.590 < 0.694)

0.083 < 人口寄与割合PARPD暴露リスク：疾患グループ = 0.110 < 0.137

 

ここで、RRはリスク比、RDはリスク差、RRDは胃がん患者内でのピロリ菌の割合と、胃がん非患者ないのピロリ菌の割合の比を取った暴露リスク比、RDDは暴露リスク差、ORはオッズ比、PARPは後ほど説明する人口寄与割合、PARPDは疾患グループの人口寄与割合を表します。

そしてこの分割表の情報量は次の様になります(行と列を入れ替えましたので値が変わります)。

 

分割表情報量

 

(暴露A, 疾患Bとして)

総情報エントロピー：1.5779  (A+B)         

そのデータ(分割表)がどの程度の情報量を持っているかを表す数値

不確定度が、情報を得ることによって確定する場合その確定するために得たものを情報量

 

相互情報エントロピー：0.04967 (I)

暴露情報と疾病情報の関連の強さを表す数値

項目疾患情報が分かることで、どの程度項目暴露情報がどの程度わかるかを表す数値

 

疾患情報エントロピー：1.000       (B)

 

相互/総エントロピー：3.1463%  (I/(A+B))

総情報エントロピーに占める相互エントロピーの割合

関連の強さが全体情報量に占める割合

 

条件情報エントロピー：0.9503     (I/A: A->I)

疾患情報を知た後の全情報の95%が暴露情報であることを意味します。

 

相互/疾患情報エントロピー：4.967%  (I)/(B)           95.0329%

暴露情報によって得られた疾患情報が全疾患情報の何%であるかを表します。

 

より詳しい情報は“分割表(偶現表)と情報量”を参照してください。

 

人口寄与割合

 

このような形にすると疫学で使われる様々な指標が計算可能となります。

実際この論文では、Population attributable fraction (PAF) をオッズ比で使っています。本来これは、リスク比の指標ですので、その求め方に沿ってい計算してみます。5)

 

PAF=人口寄与割合は、様々な名前が付いており、人口寄与危険割合（Population Attributable Risk Proportion: PARP）が一般的なようですので、この説明の中ではその略語PARPとします。ほかにも　人口寄与割合 ＝ 集団寄与危険割合 ＝ 集団寄与割合 ＝ 人口寄与危険分画（Population Attributable Risk Fraction）＝人口寄与分画　等といわれるようです。

これは、　人口全体の率の要因非曝露群の率からの増加分が、人口全体の率に占める割合を表します。　割合（分画）を％（×100）で表す場合（Population Attribute Risk Percent）もあります。

具体的に次の表(先ほどの表)で説明、計算をします。

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

478: a

383: c

861: n1

ピロリ菌非感染

33: b

128: d

161: n0

小計

511: m1

511: m0

1022: T

次の定数を定義しておきます。

R1 = a/n1; R0 = b/n0; R = m1/T; P = n1/T; P’ = a/m1;

そして、要因非暴露群(この表での暴露とはピロリ菌感染のことです)の率からの人口全体と率の増分は、R – R0　で表されます。そしてそれの人口全体の率に占める割合ですので、(R – R0)/RがPARPとなります。後々の為に変形しておきます。

PARP = (R – R0) / R

= 1 – R0 / R

= P(RR – 1) / { P(RR – 1) + 1}

= P’(RR-1) / RR

= P’(R1-R0) / R1

ここでRR (リスク比) = R1/R0 = (a/n1) / (b/n0)，R1，R0，R，P，P’ は、それぞれ上に定義した値とします。

信頼区間は論文5) に基づき、

PARPL(下限) = (R – R0)/R = P(RRL – 1)/{ P(RRL – 1) + 1}

PARPL(上限) = (R – R0)/R = P(RRH – 1)/{ P(RRH – 1) + 1}

ここで、RRL、RRHはそれぞれリスク比RRの下限、上限とします。

あとは、これを代入して計算すると、

PARPH = 0.454 < PARP = 0.590 < PARPH =0.694

 

つまり、ピロリ菌の感染という要因がなっかったとすると胃がんの罹患の59%がなくなるということです。これは被験者のピロリ菌感染率が高い(胃がん罹患ピロリ菌感染率478/511 = 0.9354胃がん非罹患ピロリ菌感染率 383/511 = 0.7495)為かなり影響が大きくなっています。感染率が下がれば影響度は下がりますのでそのあたりの考察を後ほどします。

 

母集団の推定

 

追跡母集団85394名がこの本来の母集団でその中の1681名が胃がんに罹患したのが本来の状況ですが、1681名から511名を抽出していますので考慮すべき母集団は85394x511/1681 = 25958名を母集団とします。これは511名が1681名からランダムに抽出された場合に正しいのですが、情報がないためこの仮定で解析をしてみて後ほど検討してみることにします。

前述した理由でこのリスク比を本来直接求めることはできません。しかし、RRD:暴露リスク比の478/511 対383/511の比は、正しいものでした、この比が母集団からランダムにサンプルされたものであるならば、母集団に当てはめその数をもとめ、分割表を作成することが出来ます。こちらの方が本来なされるべき方法と考えられます。そして、母集団を使い計算が可能となります。以下それを計算しその値を比べてみたいと思います。

胃がん罹患、非罹患の人々のピロリ菌感染率がこのサンプルデータで表させるとすると、つまり、下の感染率が母集団でも正しいとすると、また明確にはサンプル方法が記載されていませんが理解できる限りにおいては正しいと推測されます。

胃がん罹患ピロリ菌感染率　  478/511 = 0.9354

胃がん非罹患ピロリ菌感染率　383/511 = 0.7495

サンプル数3ケタですのでこれ以上の比の精度は求められません。

この割合を全追跡集団25958に当てはめると、下の様な分割表となります。そして、これは母集団そのものですからそれぞれの比率は、正確であり、リスク比を計算することが出来ます

 

母集団リスク比

 

ピロリ菌感染有無(暴露)による胃がん罹患有無(発症、アウトカム)を知りたいことになりますので、ピロリ菌感染を暴露とし、胃がん罹患をアウトカムとした分割表を作成すると次の様になります。

 

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

478 :a

19073 :c

19551 :n1

ピロリ菌非感染

33 :b

6374 :d

6407 :n0

小計

511: m1

25447: m0

25958 :T

 

この表から求められる指標は

3.340 < RR = 4.747 < 6.747           0.019 < RD = 0.019 < 0.019

1.219 < RRD = 1.248 < 1.278        0.182 < RDD = 0.186 < 0.190

3.398 < OR = 4.841 < 6.896

0.638 < PARP = 0.738 < 0.812       0.004 < PARPD = 0.005 < 0.005

0.660 < PARPOR = 0.742 < 0.800 0.017 < PARPDOR = 0.019 < 0.021

総情報量エントロピー：0.9425 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.0033485

疾患情報エントロピー: 0.1397

相互／総エントロピー(%): 0.3553

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.1363

相互／疾患情報エントロピー(%): 2.397%

 

---------------------------------------------------------------------------------------------

リスク比、リスク差、オッズ比計算方法

 

リスク比

RR = (a/n1)/(b/n0) = (478/19073)/(33/6374) = 4.747

信頼区間(CI)　

CI = RR * exp(±1.96x√(1/a – 1/n1) – (1/b – 1/n0))

= RR * exp(±1.96x√(c/(a*n1) – d/(b*n0))

= RR * exp(±1.96x√(19073/(478*19551) – 6374/(33*6407))

= RR * exp(±0.3516) =3.340/6.747

区間推定 RR       3.340 < RR=4.747 < 6.747

 

リスク差

RD= a/n1 – b/n0 = 478/19551 – 33/6407 = 0.019

CI = RD x exp(±1.96x√(ac/n13 + bd/n03))

= 0.019* exp(±1.96x√(478x19073/195513+33x6374/64073))

=0.019* exp(±0.0028)

=0.0019/0.0019

 

オッズ比

OR = (478x6374)/(33x19073) = 4.841

信頼区間　

CI = OR* exp(±1.96x√(1/a + 1/b + 1/c + 1/d))

exp(±1.96x√(1/478 + 1/33 + 1/19073 + 1/6374))

= exp(±0.3539) = 3.398/6.896

区間推定 OR 3.398 < OR=4.841 < 6.896

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

リスク比とオッズ比の比較

 

このリスク比は、かなりオッズ比に近い値となります。その理由は罹患率が低いからです。罹患率が低い場合はオッズ比でリスク比の代用をすることが出来ます。ただし、いつも出来るわけではありません。その制約を理解して機械的ではなく、意図を持って使用するようにするのがよいでしょう。言い換えれば、オッズ比は罹患率が0の場合リスク比と等しくなります。ただし、表の各欄が母集団の比を満たしている場合はリスク比を直接計算することが出来ます。

 

これらの結果を前の511名の値比較してみます。

 

リスク比

(ピロリ菌感染)

リスク差

(ピロリ菌感染)

リスク比

(胃がん罹患)

リスク差

(胃がん罹患)

オッズ比

母集団

3.340 <

4.747 <

6.747

0.019 <

0.019 <

0.019

1.219 <

1.248 <

1.278

0.182 <

0.186 <

0.190

3.398 <

4.841 <

6.896

511サンプル

1.986 <

2.709 <

3.693

0.326 <

0.350 <

0.376

1.181 <

1.248 <

1.319

0.176 <

0.186 <

0.0194

3.227 <

4.841 <

7.262

 

リスク比は4.747と2.709オッズ比は4.841と4.841です。リスク比はかなり違いますが、オッズ比は同じです。95%信頼区間が狭まっているのは、サンプル数が増えればその値4.841の確度が高くなるからです。そして、気がつくとは、オッズ比(4.841)が母集団で求めたリスク比(4.774)にかなり近いことです。先ほど説明したように、オッズ比はその罹患率が小さい時(今の場合胃がんの罹患率は511/25958 = 0.0197:1.79％)は、オッズ比はリスク比の代用として使うことが出来ます。ただ、１％程度の罹患率で、誤差は(4.747 – 4.841)/4.747 = 0.0198, 1.98%程度です。点推定ではなくこの例のように区間推定をしてその信頼区間を基に議論するのがよい方法です。

 

オッズ比から言えることは、ピロリ菌感染の胃がん罹患への影響はピロリ菌非感染に比べ4.841倍の危険率ということです。しかし、これはどの程度の割合で影響するのかわかりません。絶対頻度が知りたいところです。後者リスク比4.747及びリスク差0.019からはそれが見て取れます。ピロリ菌非感染の胃がん罹患割合33 /6407が 478 /19551になるのです。それぞれ1000人あたりの値に規格化しますと、5.1506/1000 と24.4489/1000になり、1000人あたり5.2名程度のリスクが24.3名程度になるということです。つまり1000人あたり19名(1.9%)増える、言い換えれば1名のピロリ菌による胃がんの罹患を得るのには53名の調査が必要だということです。

この結果は15年の追跡調査で、前の胃がんの罹患率50歳男性で1.5%程度(女性の方は、0.8%)と比べてもそれほど離れた値ではありません。

 

情報量の考察

 

相対リスクの考察からすると実際に増える危険度は1.9%程度でした。一方情報量は次の様になります。総情報量エントロピーがそれぞれの分割表の持つ情報量です。これは、一番興味があるピロリ菌感染かつがん罹患の情報がどの程度全体の情報の中で占めるかの情報ですので、サンプルデータの方が大きいのは理にかなっていますが、実際に予防に使うとすると母集団の割合を正確に表していないものを採用するよりは、母集団とサンプルの結果がそれほど変わらず(元々同じ研究なので)かつ、サンプルの方が少々大きく、また1.9%にも近い値を選ぶべきと考えられます。そのように考えると、ピロリ菌感染情報とがん罹患情報の相互作用の大きさを表す、相互情報エントロピーか、その相互情報エントロピーが全疾患情報に占める割合を表す相互/疾患情報エントロピーが使えそうです。このあたりは後ほど全データがそろったところで再考します。

 

 

総情報量

エントロピー

相互情報

エントロピー

疾患情報

エントロピー

条件情報

エントロピー

(暴露->疾患)

相互／

総情報

エントロピー(%)

相互/疾患

情報

エントロピー(%)

母集団

0.9425

0.00335

0.1397

0.1363

0.355%

2.397%

511

サンプル

1.578

0.0497

1.00

0.950

3.146%

4.967%

 

リスク差と人口寄与危険割合(PARP)

 

母集団への影響を考えるのにリスク差と人口寄与危険割合のもとに比較してみたいと思います。

リスク差は　0.019 < 0.019 < 0.019　です。リスク比は4.8倍でしたが、リスク差は0.019、1.9%です。　つまり、ピロリ菌感染が原因である時に母集団の胃がん罹患に寄与するリスクは1.9%ということです。

一方人口寄与危険割合は、0.638 < PARP = 0.738 < 0.812　です。これは、

(R – R0) / R = (m1/T – b/n0) / (m1/T)

= {(胃がん罹患数/総数) - (ピロリ非菌感染数中の胃がん罹患者/ピロリ非菌感染数)}

/ (胃がん罹患数/総数)

ですので、ピロリ菌感染によって母集団に胃がん患者が増えた割合の母集団の胃がん患者の割合に対する比です。つまり胃がん患者がピロリ菌感染によって増えた割合ですので、逆に言えばピロリ菌感染がなくなれば胃がん患者数がこれだけの割合減ることを意味します。

これが、0.738：73.8%ですので、胃がん患者の73.8%はピロリ菌感染によるともいえることになります。

予防という意味で考えますと、その効果は人口の1.9%に有効であることになります。つまり、残りの98.1％はピロリ菌感染の有無は胃がんの罹患に関連がないということにもなります。

そして、これは胃がん罹患ピロリ菌感染率　0.9354、胃がん非罹患ピロリ菌感染率0.7495の場合の結果です。その感染率が下がればその予防効果はさらに下がると考えられますが、その数字そのものが大きくないこと、また感染率が下がった母集団での有効な結果が見当たらないことを考え現状はこの値をベースに考えたいと思います。

 

交絡要因の検討

 

次に交絡について検討をしてみましょう。交絡(confounding)とは、隠れた結果(Outcome)に影響する変数のことです。この例であげるならば、例えば性別とか年齢とかがピロリ菌感染と胃がん罹患の割合に関連していないかということです。上に求めた結果を基にその有無を検討してみましょう。その方法は、性別や年齢により結果をグループ分け(層化といいます)してその各グループでの分割表を基にオッズ比OR／リスク比RRを求めてみて元のつまりグループ一つの場合の結果と比較してみることにします。これは、Mantel-Haenszel 補正(adjustment)を使って求めることが出来ます。ロジスティック回帰分析を適応し、オッズ比を直接求めることがよくなされますが、上の例を見ても慎重な対応が必要なことが分かりますので層別解析でそのあたりを探ってみます。

ただし、この補正は各層のオッズ比は層によらず一定であるとの仮定のもとに共通するオッズ比を求めるものです。これと似たものに、標準化を用いる方法があり、SMR(Standardized Morbidity/Mortality Ratio)と呼ばれる。これは一般に効果の質つまり、プラス作用かマイナス作用かは変わらないがその効果の量は各層において差がある場合はMantel-Haenszel 補正が用いられ、効果の質が変わってします場合はSMRが用いられる。つまり、言い換えれば、各層で観察された比に大きな違いがない場合は、両者は類似の値を示す。各層の比に大きく異なる場合は両者の値は異なり、SMRを採用すべきである。ただ、どのくらい差があれば質的な変化と考えるかは簡単ではありません。そこで、とりあえず各層の値とMantel-Haenszel 補正の値を求めてみる。

この補正をした場合に、

RRoriginal = RRMH, ORoriginal = ORMH

であればその要因は交絡ではないとし、

RRoriginal ≠ RRMH, ORoriginal ≠ ORMH

のときには(一般的には10%以上の差がある場合)交絡因子とされることが多いようです。具体的に求めてみましょう。

 

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

478 :a

19073 :c

19551 :n1

ピロリ菌非感染

33 :b

6374 :d

6407 :n0

小計

511: m1

25447: m0

25958 :T

3.340 < RR = 4.747 < 6.747           0.019 < RD = 0.019 < 0.019

1.219 < RRD = 1.248 < 1.278        0.182 < RDD = 0.186 < 0.190

3.398 < OR = 4.841 < 6.896

0.638 < PARP = 0.738 < 0.812       0.004 < PARPD = 0.005 < 0.005

0.660 < PARPOR = 0.742 < 0.800 0.017 < PARPDOR = 0.019 < 0.021

この結果が元になります。

 

性別による層別解析　6)

 

性別による補正は次の様になります。

男性46803人、女性50841人、計97644でした。このうち12250名が追跡不能となりましたがその男女比が不明です。そこで、この比が追跡した85394名でも成り立つとします。40931と 44463になります。そして、このうちの511/1681の比に比例する25958でも比例するとします。12442と13516になります。これはよくある否定する積極的な理由がないを採用します。後ほどその結果を考えてみます。

罹患511名の男女比は、男性342名、女性169名です。これは、母集団の男女比とは違っています。これは、男性の方が胃がんに罹患しやすいことを意味しています。

 

推定母集団による層別解析

 

まず性別により層化した分割表を作成します。

胃がん罹患ピロリ菌感染率　  478/511 = 0.9354

胃がん非罹患ピロリ菌感染率　383/511 = 0.7495

世の中のデータ(後ほど参照します)を見てもこの比率が男女で差があるとは出ていませんので、それぞれにそのまま成り立つとします。

また、男性の胃がん罹患は、327名、女性の胃がん罹患者は、151名ですのでその値を使います。

 

男性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

327 :a1

9069 :c1

9396 :n11

ピロリ菌非感染

15 : b1

3031: d1

3046 :n01

小計

342

12100

12442 :T1

 

4.219 < RR = 7.067 < 11.839         0.030 < RD = 0.030 < 0.030

1.244 < RRD = 1.276 < 1.308        0.202 < RDD = 0.207 < 0.211

4.335 < OR = 7.286 < 12.245

0.709 < PARP = 0.821 < PARPH =0.891     0.007 < PARPD = 0.008 < 0.008

                                   

総情報量エントロピー：0.9785 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.006077

疾患情報エントロピー: 0.1816

相互／総エントロピー(%): 0.6211

条件情報エントロピー(検査－＞疾患): 0.17555

相互／疾患情報エントロピー(%): 3.3459%

 

女性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

151 :a2

10004 :c2

10155: n12

ピロリ菌非感染

18 :b2

3343 :d2

3361: n02

小計

169

13347

13516 :T2

 

1.706 < RR = 2.776 < 4.519           0.009 < RD = 0.010 < 0.010

1.131 < RRD = 1.192 < 1.257        0.137 < RDD = 0.144 < 0.151

1.717 < OR = 2.803 < 4.577

0.347 < PARP = 0.572 < 0.726       0.002 < PARPD = 0.002 < 0.003

                                   

総情報量エントロピー：0.90485 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.001176

疾患情報エントロピー: 0.09697

相互／総エントロピー(%): 0.1300

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.09592

相互／疾患情報エントロピー(%): 1.213%

 

この男女のグループ化(層化)でのMH(Mantel-Haenszel)補正は次の様になります(計算方法は後ほど示します)。

 

3.328 < RRMH = 4.732 < 6.728     0.019 < RDMH = 0.019 < 0.019

1.218 < RRMHD = 1.248 < 1.278  0.182 < RDMHD = 0.186 < 0.190

3.387 < ORMH = 4.824 < 6.871

0.637 < PARP = 0.738 < 0.812       0.004 < PARPD = 0.005 < 0.005

総情報量エントロピー：0.9425 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.0033485

疾患情報エントロピー: 0.1397

相互／総エントロピー(%): 0.3553%

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.1363

相互／疾患情報エントロピー(%): 2.397%

 

また、標準化技法これは、調整死亡率によく用いられる標準化死亡率比SMR(Standardized Mortality Ratio)に基づく方法を用います。これはリスク比に適応されますのでその値は次の様になります(計算方法は後ほど示します)。

 

3.326 < RRSMR = 4.727 < 6.718   0.019 < RDSMR = 0.019 < 0.019

1.196 < RRDSMR = 1.232 < 1.269 0.182 < RDDSMR = 0.186 < 0.190

0.637 < PARP = 0.738 < 0.812       0.004 < PARPD = 0.005 < 0.005

 

サンプルでの層別解析

 

同じことをサンプルデータに当てはめてみます。性別により層化した分割表を作成します。

男性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

327 :a1

259 :c1

586: n1

ピロリ菌非感染

15 : b1

83: d1

98: n0

小計

342: m1

342: m0

684 :T1

この表より、

2.276 < RR = 3.646 < 5.841           0.373 < RD = 0.405 < 0.439

1.184 < RRD = 1.263 < 1.346        0.189 < RDD = 0.199 < 0.209

3.937 < OR = 6.986 < 12.397

0.522 < PARP = 0.694 < 0.806       0.084 < PARPD = 0.116 < 0.148

 

総情報量エントロピー：1.5296 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.006315

疾患情報エントロピー: 1.000　

相互／総エントロピー(%): 4.12856

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.93685

相互／疾患情報エントロピー(%): 6.315%

 

女性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

151 :a2

124 :c2

275: n1

ピロリ菌非感染

18 :b2

45 :d2

63: n0

小計

169: m1

169: m0

338 :T2

この表より、

1.282 < RR = 1.922 < 2.881           0.232 < RD = 0.263 < 0.299

1.097 < RRD = 1.218 < 1.352        0.147 < RDD = 0.160 < 0.173

1.677 < OR = 3.044 < 5.525

0.187 < PARP = 0.429 < 0.605       0.046 < PARPD = 0.098 < 0.150

 

総情報量エントロピー：1.6627 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.03118

疾患情報エントロピー: 1.000　

相互／総エントロピー(%): 1.87526

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.9688

相互／疾患情報エントロピー(%): 3.118%

 

この男女のグループ化(層化)でのMH(Mantel-Haenszel)補正は次の様になります。

1.996 < RRMH = 2.728 < 3.728                   0.326 < RDMH = 0.350 < 0.376

1.181 < RRDMH = 1.248 < 1.319                0.178 < RDDMH = 0.186 < 0.194

3.692 < ORMH = 4.867 < 6.417

0.456 < PARPMH = 0.593 < 0.697              0.083 < PARPDMH = 0.110 < 0.137

 

また、SMR(Standardized Mortality Ratio)に基づくリスク比は次の様になります。

1.992 < RRSMR = 2.705 < 3.675                 0.326 < RDSMR = 0.350 < 0.376

1.181 < RRDSMR = 1.248 < 1.319              0.178 < RDDSMR = 0.186 < 0.194

0.455 < PARPSMR = 0.590 < 0.693                          0.083 < PARPDSMR = 0.110 < 0.137

 

総情報量エントロピー：1.5787 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.04967

疾患情報エントロピー: 1.000　

相互／総エントロピー(%): 3.1463

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.95033

相互／疾患情報エントロピー(%): 4.967%

 

-------------------------------------------------------------------------------------

Mantel-Haenszelの補正

 

計算方法 6)

 

男性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

327 :a1

259 :c1

586: n11

ピロリ菌非感染

15 : b1

83: d1

98: n01

小計

342: m11

342: m01

684 :T1

女性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

151 :a2

124 :c2

275: n12

ピロリ菌非感染

18 :b2

45 :d2

63: n02

小計

169: m12

169: m02

338 :T2

 

Mantel-Haenszelの補正は、層を通じてオッズ比が一定であると仮定し、つまりばらつきは誤差であるとの仮定で一定の比を計算することです。そのリスク比/リスク差/オッズ比のMantel-Haenszel 補正は、WMH = n1*n0/T の重み付けをすることに相当します。

 

R1 = a/n1 R0 = b/n0 として

RRMH= RRMH分子／RRMH分母 =ΣWMHi R1i ／ΣWMHi R0i =Σai n0i/Ti ／Σbi n1i/Ti

CI = RRMH x exp(±1.96x√(V(logRRMH))

ここで、

V(logRRMH) =Σ(m1i n0i n1i/(Ti)2– ai bi / Ti)／(Σai n0i / Ti)(Σbi n1i / Ti)

CI = RRMH x exp(±1.96x√(V(logRRMH)) = 2.728 x exp(±0.312) = 3.728/1.996

RDMH= RDMH分子／RDMH分母 =ΣWMHi (R1i – R0i )／ΣWMHi

=Σ(ai n0i – bi n1i)/Ti ／Σn0i n1i/Ti

CI = RDMH x exp(±1.96x√(V(logRDMH))

V(logRRMH) =ΣWMHi (ai bi / n1i 2(n1i -1) + ci di / n0i 2(n0i -1))／ΣWMHi

CI = RDMH x exp(±1.96x√(V(logRDMH)) = 0.350 x exp(±0.071) = 0.376/0.326

 

ORMH =ΣWMHi (ai / n1i)(di / n0i) ／ΣWMHi (ci / n1i)(bi / n0i) =Σ(aidi /Ti) /Σ(ci di / Ti)

              = (a1d1 / T1 + a2d2 / T2) / (c1d1/T1 + c2d2 / T2)

= 4.867

 

その分散VMHは、

CI = ORMH x exp(±1.96x√(V(logORMH))

V(logORMH)

= [(a1d1)(a1+d1)/T12 +(a2d2)(a2+d2)/T22]/2(a1d1/T1 + a2d2/T2 ) 2

+ [(a1d1) (b1+ c1)/T12+ (b1c1) (a1+ d1)/T12 +(a2d2) (b2+ c2)/T22+ (b2c2) (a2+ d2)/T22]

/ 2[((a1d1 /T1+ a2d2 /T2)( b1c1 /T1+ b2c2 /T2)]

+[(b1b1)(b1+c1)/T12 +(b2b2)(b2+c2)/T22]/2(b1c1/T1 + b2c2/T2 ) 2

CI = ORMH x exp(±1.96x√(V(logORMH)) = 4.867 x exp(±0.276) = 6.417/3.692


SMR(Standard Mortality Ratio)

 

計算方法

 

今度は、標準化の方法SMR(Standard Mortality Ratio:標準化死亡率)で求めてみましょう。7)

 

男性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

327 :a1

259 :c1

586: n11

ピロリ菌非感染

15 : b1

83: d1

98: n01

小計

342: m11

342: m10

684 :T1

 

女性

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

151 :a2

124 :c2

275: n12

ピロリ菌非感染

18 :b2

45 :d2

63: n02

小計

169: m21

169: m02

338 :T2

 

SRR(Standard Risk Ratio) = (r1 a1/n11 + r2 a2/n12)/ (r1 b1/n01 + r2 b2/n02)

非暴露グループを基準として標準化するため、

r1 = n01, r2 = n02として、

SRR = (98 x 327/586 + 63 x 151/275)/ (98 x 15/98 + 63 x 18/63)

= (98 x 327/586 + 63 x 151/275)/ (15 + 18)

= 2.705

CI = SRR x exp(±1.96x√(V(logSRR))

ここで

参照：Rothman, K.J. Modern Epidemiology, Little, Brown and Co. Boston

 

V(log SRR) = Σ(ri ai / n1i (ri - ri ai / n1i) / n1i ) / ( ri ai / n1i)2

+Σ(ri bi / n0i (ri - ri bi / n0i) / n0i ) / ( ri bi / n0i)2

= (n01 a1 / n11 (n01 - n01 a1 / n11) / n11

+n02 a2 / n12 (n02 - n02 a2 / n12) / n12) / (n02 a2 / n12)2

+ (n01 b1 / n01 (n01 - n01 b1 / n01) / n01

+n02 b1 / n01 (n02 - n02 b1 / n01) / n01) / (n02 b1 / n01)2

= (n01 a1 / n11 (n01 - n01 a1 / n11) / n11

+n02 a2 / n12 (n02 - n02 a2 / n12) / n12) / (n02 a2 / n12)2

+ (b1 (n01 - b1) / n01 + b2 (n02 – b2) / n02) / (b2)2

= (98 x 327 / 586 x (98 - 98 x 327 / 586) / 586

+ 63 x 151 / 275 x (63 - 63 x 151 / 275) / 275) / (63 x 18 / 275)2

+ (15 x (98 - 15) / 98 + 18 x (63 – 18) / 63) / (18)2

これを計算して、

 

CI = SRR x exp(±1.96x√(V(logSRR))

  = 2.705 x exp(±0.306)

  = 3.675/ 1.922

1.922 < SRR=2.705 < 3.675

 

そして、リスク差は

SDR = [(r1 a1/n11 + r2 a2/n12) - (r1 b1/n01 + r2 b2/n02)] / (r1 + r2)

先ほどと同様r1 = n01, r2 = n02として、

SDR = [(n01 a1/n11 + n02 a2/n12) - (b1 + b2)] / (n01 + n02) = 0.350

CI = SDR x exp(±1.96x√(V(logSDR))

V(logSDR) =(1/Σri)Σ[(ri ai / n1i (ri - ri ai / n1i) / n1i ) / ( ri ai / n1i)

+ (ri bi / n0i (ri - ri bi / n0i) / n0i) / ( ri bi / n0i)]

CI = SDR x exp(±1.96x√(V(logSDR)) = 0.350 x exp(±0.071) = 0.376/0.326

0.326 < SDR=0.350 < 0.376

 

計算終わり

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これらの結果の解析は後ほどします。

 

年齢別層別解析

 

男女別層別解析の結果を見ますと本来男女別で年齢別解析をすべきと考えられますが、その為の十分な情報がありません。そこで、とりあえず男女一緒にして年齢別解析をしてみたいと思います。

 

サンプルデータの場合

 

男女一緒の年齢情報がありますのでそれを基に分割表を作成していきたいと思います。

 

年齢による補正は次の様になります。まず年齢別の分割表を作ります。

40歳代

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

72 :a

52 :c

124 :n1

ピロリ菌非感染

5 :b

25 :d

30 :n0

小計

77

77

154 :T

1.544 < RR = 3.484 < 7.863           0.353 < RD = 0.414 < 0.485

(1.173 < RRD = 1.385 < 1.634)      (0.231 < RDD = 0.260 < 0.292)

2.486 < OR = 6.923 < 19.282

0.304 < PARP = 0.667 < 0.847       (0.080 < PARPD = 0.161 < 0.241)

総情報エントロピー：1.62806      

相互情報エントロピー：0.08335

疾患情報エントロピー：1.000      

相互/総エントロピー：5.1198%

条件情報エントロピー：0.91665  

相互/疾患情報エントロピー：8.335%

 

50歳代

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

220 :a

180 :c

400 :n1

ピロリ菌非感染

15 :b

55 :d

 70 :n0

小計

235

235

470 :T

1.625 < RR = 2.567 < 4.055           0.301 < RD = 0.336 < 0.374)

(1.130 < RRD = 1.222 < 1.322)      (0.160 < RDD = 0.170 < 0.181)

2.450 < OR = 4.481 < 8.198

0.347 < PARP = 0.571 < 0.722       (0.061 < PARPD = 0.100 < 0.139)

総情報エントロピー：1.5637        

相互情報エントロピー：0.03444

疾患情報エントロピー：1.000      

相互/総エントロピー：2.7782%

条件情報エントロピー：0.95656  

相互/疾患情報エントロピー：4.344%

 

60歳代

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

186 :a

151 :c

337 :n1

ピロリ菌非感染

13 :b

48 :d

61 :n0

小計

199

199

398 :T

1.584 < RR = 2.590 < 4.235           0.302 < RD = 0.339 < 0.380

(1.130 < RRD = 1.232 < 1.343)      (0.164 < RDD = 0.176 < 0.188)

2.376 < OR = 4.548 < 8.706

0.331 < PARP = 0.574 < 0.733       (0.061 < PARPD = 0.104 < 0.146)

総情報エントロピー：1.5726        

相互情報エントロピー：0.0453

疾患情報エントロピー：1.000      

相互/総エントロピー：2.8815%

条件情報エントロピー：0.9547    

相互/疾患情報エントロピー：4.5316%

 

MH補正

1.987 < RRMH = 2.709 < 3.692     0.326 < RDMH = 0.350 < 0.376

1.182 < RRDMH = 1.248 < 1.319  0.178 < RDDMH = 0.186 < 0.194

3.676 < ORMH = 4.841 < 6.377

0.454 < PARP = 0.590 < 0.694       0.083 < PARPD = 0.110 < 0.137

SRM標準化

1.992 < RRSRM = 2.715 < 3.701   0.326 < RDSRM = 0.350 < 0.376

1.118 < RRDSRM = 1.248 < 1.319 0.178 < RDDSRM = 0.186 < 0.194

0.454 < PARP = 0.591 < 0.695       0.083 < PARPD = 0.110 < 0.137

総情報エントロピー：1.578          

相互情報エントロピー：0.04967

疾患情報エントロピー：1.0          

相互/総エントロピー：3.1463%

条件情報エントロピー：0.9503    

相互/疾患情報エントロピー：4.967%

 

推定母集団の場合

 

サンプルの比率が母集団でも成り立つとして解析してみます。

 

                                          40代                    50代                    60代

罹患実質人数                    77/511                 235/511               199/511

ピロリ菌感染&罹患          72/511: 0.14090  220/511: 0.43053 186/511: 0.36400

ピロリ菌感染/罹患            72/77: 0.9351      220/235: 0.9362  186/199: 0.9347

ピロリ菌感染/非罹患         52/77: 0.675        180/235: 0.766    151/199: 0.759

母集団人数                        3911                    11938                  10109                  25958

                                         

この割合を次の元の分割表に適応すると、

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

478 :a

19073 :c

19551 :n1

ピロリ菌非感染

33 :b

6374 :d

6407 :n0

小計

511: m1

25447: m0

25958 :T

 

年代別割合の適応

 

母集団40歳代の分割表

40

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

72 :a

2589 :c

2661 :n1

ピロリ菌非感染

5 :b

1245 :d

1250 :n0:

小計

77

3834

3911:T

2.739 < RR = 6.764 < 16.704                       0.023 < RD = 0.023 < 0.023

1.300 < RRD = 1.385 < 1.474        0.245 < RDD = 0.260 < 0.275

2.790 < OR = 6.925 < 17.186

0.542 < PARP = 0.797 < 0.914       0.006 < PARPD = 0.008 < 0.009

総情報エントロピー：1.03805

相互情報エントロピー：0.005590

疾患情報エントロピー：0.1397

相互/総エントロピー：0.5385%

条件情報エントロピー：0.1341    

相互/疾患情報エントロピー：4.00185%

 

50代分割表

50

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

220 :a

8964 :c

9184 :n1

ピロリ菌非感染

15 :b

2739 :d

2754 :n0

小計

235

11703:

11938 :T　

2.611 < RR = 4.398 < 7.407           0.018 < RD = 0.018 < 0.018

1.180 < RRD = 1.222 < 1.266        0.165 < RDD = 0.170 < 0.176

2.652 < OR = 4.481 < 7.574

0.553 < PARP = 0.723 < 0.831       0.004 < PARPD = 0.004 < 0.005

総情報エントロピー：0.91595      

相互情報エントロピー：0.0029346

疾患情報エントロピー：0.13967

相互/総エントロピー：0.32089%

条件情報エントロピー：0.13673  

相互/疾患情報エントロピー：2.1011%

 

60代分割表

60

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

186 :a

7520 :c

7706 :n1

ピロリ菌非感染

13 :b

2390 :d

2403 :n0

小計

199

9910

10109 :T　

2.547 < RR = 4.462 < 7.814           0.019 < RD = 0.019 < 0.019

1.185 < RRD = 1.232 < 1.280        0.170 < RDD = 0.176 < 0.182

2.587 < OR = 4.547 < 7.994

0.541 < PARP = 0.725 < 0.839       0.005 < PARPD = 0.005 < 0.005

総情報エントロピー：0.9278        

相互情報エントロピー：0.003062

疾患情報エントロピー：0.1397

相互/総エントロピー：0.3300%

条件情報エントロピー：0.1366    

相互/疾患情報エントロピー：2.192%

 

年代別層別化解析のMH補正の結果

3.343 < RRMH < 4.747 < 6.742     0.019 < RDMH = 0.019 < 0.019

1.219 < RRDMH=1.248 < 1.278    0.182 < RDDMH = 0.186 < 0.190

3.899 < ORMH=4.841 < 6.896

0.638 < PARP = 0.738 < 0.812       0.004 < PARPD = 0.005 < 0.005

年代別層別化解析のSMR補正の結果

3.363 < RRSMR=4.782 < 6.799     0.019 < RDSRM = 0.019 < 0.019

1.219 < RRDSMR=1.248 < 1.278  0.182 < RDDSMR = 0.186 < 0.190

0.640 < PARP = 0.740 < 0.814       0.004 < PARPD = 0.005 < 0.005

総情報エントロピー：0.9425        

相互情報エントロピー：0.0033484

疾患情報エントロピー：0.1397

相互/総エントロピー：0.35527%

条件情報エントロピー：0.13632  

相互/疾患情報エントロピー：2.3974%

 

結果のまとめ


まとめますと次の様になります。

 

 

RR

RD

OR

オリジナル５１１サンプル

(1.986 < 2.709 < 3.693)

(0.326 < 0.350 < 0.376)

3.227 < 4.841 < 7.262

母集団

3.340 < 4.747 < 6.747

0.019 < 0.019 < 0.019

3.398 < 4.841 < 6.896

母集団男性グループ

4.219 < 7.067 < 11.839

0.030 < 0.030 < 0.030

4.335 < 7.286 < 12.245

サンプル男性グループ

(2.276 < 3.646 < 5.841)

(0.373 < 0.405 < 0.439)

3.937 < 6.986 < 12.397

母集団女性グループ

1.706 < 2.776 < 4.519

0.009 < 0.010 < 0.010

1.717 < 2.803 < 4.577

サンプル女性グループ

(1.282 < 1.922 < 2.881)

(0.232 < 0.263 < 0.299)

1.677 < 3.044 < 5.525

母集団男性女性HM補正

3.328 < 4.732 < 6.728

0.019 < 0.019 < 0.019

3.387 < 4.824 < 6.871

母集団男性女性SMR補正

3.326 < 4.727 < 6.718

0.014 < 0.014 < 0.014

 

サンプル男性女性HM補正

(1.996 < 2.728 < 3.728)

(0.326 < 0.350 < 1.376)

3.692 < 4.867 < 6.417

サンプル男性女性SMR補正

(1.992 < 2.705 < 3.675)

(0.326 < 0.350 < 0.376)

 

母集団グループ40代

2.739 < 6.764 < 16.704

0.023 < 0.023 < 0.023

2.790 < 6.925 < 17.186

サンプルグループ40代

(1.544 < 3.484 < 7.863)

(0.353 < 0.414< 0.485)

2.486 < 6.923 < 19.282

母集団グループ50代

2.611 < 4.398 < 7.407

0.018 < 0.018 < 0.018

2.652 < 4.481 < 7.574

サンプルグループ50代

(1.625 < 2.567 < 4.055)

(0.301 < 0.336 < 0.374)

2.450 < 4.481 < 8.198

母集団グループ60代

2.547 < 4.462 < 7.814

0.019 < 0.019 < 0.019

2.587 < 4.547 < 7.994

サンプルグループ60代

(1.584 < 2.590 < 4.235)

(0.302 < 0.339 < 0.380)

2.376 < 4.548 < 8.706

母集団年代別HM補正

3.343 < 4.747 < 6.742

0.019 < 0.019 < 0.019

3.899 < 4.841 < 6.896

母集団年代別SMR補正

3.363 < 4.782 < 6.799

0.019 < 0.019 < 0.019

 

サンプル年代別HM補正

(1.987 < 2.709 < 3.692)

(0.326< 0.350 < 0.376)

 

サンプル年代別SMR補正

(1.992 < 2.715 < 3.701)

(0.326 < 0.350 < 0.376)

3.676 < 4.841 < 6.377

 

オッズ比の比較

オリジナルサンプル3.227 < 4.841 < 7.262、推定母集団3.398 < 4.841 < 6.896この値を比較すると、母集団の推定は正しいと考えられます。これより母集団の解析結果を参照にすることにします。


オッズ比とリスク比

オリジナルサンプルオッズ比3.227 < 4.841 < 7.262、母集団リスク比3.340 < 4.747 < 6.747この二つの値を比較するとサンプルベースのオッズ比の推定は母集団のリスク比とたいへん近く、オッズ比を想定危険度として使うことは問題ないと考えられるのでロジスティック解析は注意深く用いれば問題ないと判断します。

また、511サンプルのリスク比は、1.986 < 2.709 < 3.693であり、層別解析でもだいたい同じ値1.996 < 2.728 < 3.728をしてしており、これは母集団のリスク比、511サンプルのオッズ比と比べてかなり違っており、これは母集団のピロリ菌感染割合をサンプルが正確に反映していないために起こっており、改めてランダムサンプルの重要性と、症例対照研究でのリスク比のしようの危険性を表しています。

 

男女層別解析


１）　母集団の場合

母集団リスク比                 3.340 < 4.747 < 6.747

男性グループリスク比      4.219 < 7.067 < 11.839、

女性グループリスク比     1.706 < 2.776 < 4.519、

男性女性HM補正            3.328 < 4.732 < 6.728、

男性女性SMR補正           3.326 < 4.727 < 6.718、

 

男性グループが大きく、女性グループが小さく、信頼区間はかろうじて重なっています。実際の政府発表の胃がん罹患率男女別データ(後ほど参照します)でも女性が胃がんにかかりにくいことははっきりと表れています。これより、このデータは男女層別解析すべきであり、その結果男女別々にリスクを検討すべきであると判断します。またHM補正、SMR補正とも層別化しないものと値とたいへん近いですが、これはあくまで男女同一のリスクを持つと仮定した場合に層を合わせた結果ですので、一定のリスクではないと判断される場合はこの補正を実行すること自体が推奨されません。

 

２）　511サンプルの場合

男性グループオッズ比                    3.937 < 6.986 < 12.397、

女性グループリスク比                   1.677 < 3.044 < 5.525、

男性女性オッズ比HM補正            3.692 < 4.867 < 6.417、

オリジナルオッズ比                        3.227 < 4.841 < 7.262

 

511サンプルデータで比較してもよいのはオッズ比です。男性のオッズ比がかなり大きく、女性のオッズ比かかなり小さく、またそれらの値は母集団から推定されるリスク比と近い値となっています。HM補正はオリジナルとかない近い値を出していますが、これも先ほどの考察のように男女が同一のリスクであると仮定した場合の補正ですので、その補正自体が問題となりますので実行すべき補正ではないと判断されます。

これにより、ピロリ菌感染の胃がんへの影響は男女別々で推定することにします。

 

年齢別層別解析

男女別の結果より、男女別々に年齢層別解析をしたいのですが、そのグループ分けを行えるだけの十分な情報がありません。そこで、男女一緒として年齢層別解析を行ってみます。


４－１）母集団

母集団40代グループリスク比                     2.739 < 6.764 < 16.704

母集団50代グループリスク比                     2.611 < 4.398 < 7.407

母集団60代グループリスク比                     2.547 < 4.462 < 7.814

母集団年代別リスク比HM補正                   3.362 < 4.776 < 6.784

母集団年代別リスク比SMR補正                 3.343 < 4.747 < 6.742

母集団リスク比                                             3.363 < 4.782 < 6.799

 

各年代のリスク比、及びそのHM補正、SMR補正リスク比は、サンプル年代別のオッズ比とかなり近くなっています。これは、罹患率が低いことを考えると母集団の推定がよい線を言っていることを意味します。そこで、基本的にはこの母集団の結果を優先することにします。ただし、男女別解析で説明しましたように本来男女別で解析すべきです。その可能性は後ほど探ってみたいと思います。

 

40代のみが大きな値となっています。ただし、信頼区間は大きく重なっており、サンプル数が少ないがために信頼区間も広くこのデータだけでは40代のみ差があるとは言えません。ただサンプルサイズはかなり多い(3911)ため、全く無視することも問題がありそうです。これの言わんとすることは、若いほどピロリ菌の影響で胃がんになるということです。なんとなく納得できる部分もあります。よって、後ほど違う形で考察してみたいと思います。

 

４－２）511サンプル

下のようにサンプルの結果と推定母集団の結果はかなり似通っています。そこで、基本的には推定母集団の結果を優先します。

 

サンプル40代グループオッズ比                  2.486 < 6.923 < 19.282

サンプル50代グループオッズ比                  2.450 < 4.481 < 8.198

サンプル60代グループオッズ比                  2.376 < 4.548 < 8.706

サンプル年代別オッズ比HM補正               3.676 < 4.841 < 6.377

サンプルオッズ比                                         3.227 < 4.841 < 7.262

 

母集団40代グループリスク比                     2.739 < 6.764 < 16.704

母集団50代グループリスク比                     2.611 < 4.398 < 7.407

母集団60代グループリスク比                     2.547 < 4.462 < 7.814

母集団年代別リスク比HM補正                   3.362 < 4.776 < 6.784

母集団年代別リスク比SMR補正                 3.343 < 4.747 < 6.742

 

ピロリ菌感染の胃がんへの影響の年齢補正

 

これより、年齢による補正、性別による補正は行わず、胃がんのリスクに対し、男女の層別化は行ったうえで、ピロリ菌悲感染で胃がんになる絶対頻度を15年で0.019(0.1267%/年)とし、男性はそれに、0.030 – 0.019 = 0.011(0.0733%/年)のプラス(0.2%/年)、女性はそれから0.010 – 0.019 = -0.009、つまり0.009(0.06%/年)減算するもの(0.0667%/年)とします。これらの値は後ほど他の論文、情報と比較け検討したいと思います。

また1681/85394=0.019685223(1.9685%)、1968.522379/10万人が全体の値、つまりピロリ菌感染の有無がわからない場合に基準とします。

ピロリ菌感染率は最近減ってきていますのでその考察は後ほどします。

除菌の効果についてはこのレポートからは不明で、他のリソースを探す必要があります。

 

人口寄与割合、相互情報エントロピー、相互／疾患情報エントロピーのまとめ

 

PARP (RiskRatio)

人口寄与割合

PARP (Odds Ratio)

人口寄与割合

相互情報

エントロピー

相互/疾患情報

エントロピー

オリジナル５１１サンプル

(0.454 < 0.590 < 0.694)

0.646 < 0.742 < 0.807

0.04967

4.967%

母集団

0.639 < 0.739 < 0.813

0.660 < 0.742 < 0.800

0.0023764

2.248%

母集団男性グループ

0.606 < 0.733 < 0.820

0.634 < 0.738 < 0.806

0.004334

2.493%

サンプル男性グループ

(0.522 < 0.694 < 0.806)

0.713 < 0.819 < 0.879

0.006315

6.315%

母集団女性グループ

0.552 < 0.751 < 0.864

0.585 < 0.752< 0.840

0.0012274

2.060%

サンプル女性グループ

(0.187 < 0.429 < 0.605)

0.361 < 0.600 < 0.732

0.03118

3.118%

母集団男性女性HM補正

0.638 < 0.738 < 0.812

0.660 < 0.742 < 0.800

0.0023764

2.248%

母集団男性女性SMR補正

0.638 < 0.738 < 0.812

 

0.0023764

2.248%

サンプル男性女性HM補正

(0.456 < 0.593 < 0.697)

0.647 < 0.743 < 0.808

0.04967

4.967%

サンプル男性女性SMR補正

(0.455 < 0.590 < 0.693)

 

0.04967

4.967%

母集団グループ40代

0.542 < 0.797 < 0.914

0.600 < 0.800 < 0.881

0.005590

4.002%

サンプルグループ40代

(0.304 < 0.667 < 0.847)

0.559 < 0.800 < 0.887

0.08335

8.335%

母集団グループ50代

0.553 < 0.723 < 0.831

0.583 < 0.727< 0.813

0.0029346

2.101%

サンプルグループ50代

(0.347 < 0.571 < 0.722)

0.554 < 0.727 < 0.822

0.03444

4.344%

母集団グループ60代

0.541 < 0.725 < 0.839

0.574 < 0.729 < 0.818

0.003062

2.193%

サンプルグループ60代

(0.331 < 0.574 < 0.733)

0.541 < 0.729 < 0.827

0.0453

4.5316%

母集団年代別HM補正

0.638 < 0.738 < 0.814

0.657 < 0.740 < 0.814

0.0033484

2.3974%

母集団年代別SMR補正

0.640 < 0.740 < 0.814

 

0.0033484

2.3974%

サンプル年代別HM補正

(0.454 < 0.590 < 0.694)

0.646< 0.742 < 0.807

0.04967

4.967%

サンプル年代別SMR補正

(0.454 < 0.591 < 0.695)

 

0.04967

4.967%

 

１）論文では、人口寄与割合は0.633<0.75.2<83.2となっています。これは、サンプルがランダムとならなかった禁煙／喫煙、野菜や果物の摂取量などで補正をかけていますがその情報が載っていないためとりいれることが出来ません。また、罹患率が低いということでオッズ比ベースの人口寄与割合を計算しています。上の計算より、

511サンプルオッズ比人口寄与割合              0.646 < 0.742 < 0.807

推定母集団リスク比人口寄与割合                0.639 < 0.739 < 0.813

推定母集団オッズ比人口寄与割合                0.660 < 0.742 < 0.800

 

本来の母集団リスク比人口寄与割合がその他の値と非常に近いため、オッズ比人口寄与割合はよくリスク比ベースのものを代表しており、また推定母集団もかなりよい推定となっていいると考えられます。それならば、サンプルベースの結果よりも推定母集団の結果を使用していきたいと思います。

 

２）人口寄与割合は75%程度ありますが、実際に影響を受けるのは約1.4％の人でした。　75%ですと非常に有効なように感じてしまいますが、これが相対危険度、特に相対オッズ比の注意を要するところです。必ず何らかの絶対危険度を同時に比較すべきと考えられます。

 

３）表を比べると相互/疾患情報エントロピーがよく実情を表しているようです。今後この値も注目していきたいと思います。

 

ピロリ菌感染とペプシノーゲンとGagA

 

この論文では更にCagAの状態とペプシノーゲンの状態を合わせて検討しています。今度はそちらを見てみます。

CagA： ピロリ菌が分泌する胃がんの病原因子のひとつである蛋白で、ピロリ菌感染の最大の危険因子と言われています。これを有していると、より強い炎症との関連があるとされます。CagAは胃上皮細胞内でチロシンリン酸化を受け、そのリン酸化されたCagAは細胞増殖や細胞運動、細胞死抑制など多様な細胞応答を引き起こすことが報告されています。欧米に比べて日本では多くのピロリ菌がCagAを有しているといわれている。

 

ペプシノーゲン (PG)： 胃粘膜から分泌されるペプシンの前駆物質のことで、血清中に含まれています。胃のどの辺りで分泌されるかにより、ペプシノーゲンⅠとⅡ(PGI, PGII)に分類されます。両者の胃内の分布の違いが胃粘膜の状態を反映し、血中濃度も変化することから胃粘膜萎縮の指標として用いられます。血液中のペプシノーゲンのⅡに対するⅠの割合を調べると、胃粘膜の萎縮の広がりとその程度、胃液の分泌機能、胃粘膜の炎症の有無が分かります。最近胃がんのスクリーニング検査として有用であることが明らかとなり始めています。つまり、血液検査による胃がんリスク検診です。

 

CagA解析

 

さて元のリスク比は次の様でした。これを基にまずCagAの危険度を解析してみます。

母集団リスク比/差            3.340 < 4.747 < 6.747       0.019 < 0.019 < 0.019

母集団男性リスク比/差     4.219 < 7.067 < 11.839     0.030 < 0.030 < 0.030

母集団女性リスク比/差     1.706 < 2.776 < 4.519       0.009 < 0.010 < 0.010

サンプルオッズ比             3.227 < 4.841 < 7.262

サンプル男性オッズ比      3.937 < 6.986 < 12.397

サンプル女性オッズ比      1.677 < 3.044 < 5.525

 

サンプル解析

 

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

CagA+

390: a

358: c

748: n1

CagA－

121: b

153: d

274: n0

小計

511: m1

511: m0

1022: T

1.016 < RR = 1.181 < 1.371           0.074 < RD = 0.080 < 0.085

1.011 < RRD = 1.089 < 1.174         0.059 < RDD = 0.063 < 0.066

1.043 < OR = 1.377 < 1.174

0.012 < PARP = 0.117 < 0.214       0.006 < PARPD = 0.043 < 0.080

総情報量エントロピー：1.835 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.00361

疾患情報エントロピー: 1.0

相互／総エントロピー(%): 0.196

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.9964

相互／疾患情報エントロピー(%): 0.361%

 

推定母集団解析

 

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

CagA+

390: a

17828: c

18218: n1

CagA－

121: b

7619: d

7740: n0

小計

511: m1

25447: m0

25958 :T

1.119 < RR = 1.369 < 1.676           0.006 < RD = 0.006 < 0.006

1.037 < RRD = 1.089 < 1.144        0.060 < RDD = 0.063 < 0.065

1.121 < OR = 1.377 < 1.692

0.077 < PARP = 0.206 < 0.322       0.001 < PARPD = 0.002 < 0.003

0.083 < PARPOR = 0.209 < 0.312 0.002 < PARPDOR = 0.006 < 0.009

総情報量エントロピー：1.0184 (Max2.0)

相互情報エントロピー: 0.0002724

疾患情報エントロピー: 0.13967

相互／総エントロピー(%): 0.02675

条件情報エントロピー(暴露－＞疾患): 0.13940

相互／疾患情報エントロピー(%): 0.19505%

 

サンプルのオッズ比1.043 < OR = 1.377 < 1.174と推定母集団のリスク比1.119 < RR = 1.369 < 1.676は、たいへん似通っています。そこで推定母集団の値が使えるものとします。

基準は、母集団の胃がんリスク 511/25958 です。

そして、CagA－の胃がんリスクは121/7740 そしてCagA+の胃がんリスクは390/18218です。

そこで、

CagA－対母集団のリスク比/差は

(121/7740)/(511/25958) = 0.794135732       (121/7740) - (511/25958) = -0.004052571

CagA＋対母集団のリスク比/差は

(390/18218)/(511/25958) = 1.087462369     (390/18218) - (511/25958)= 0.001721753

これより、CagA情報がわかった場合には－の時は、－0.4%、＋の時は＋0.17％をオリジナルより下限すべきと考えます。

 

ピロリ菌感染とCagAの組み合わせ解析

 

IgG & CagAサンプル解析

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

IgG + CagA+

363: a4

281: c4

644: n14

IgG + CagA－

115: a3

102:c3

217: n13

IgG－CagA+

27: a2

77: c2

104: n12

IgG－CagA－

6: a1

51: c1

57: n11

小計

511: m1

511: m0

1022: T

IgG－CagA－を基準として(1.0)、他のRelative Riskを次の様に計算しています。

RelativeR1 = 6/51 = 0.11765 -> 1.0に規格化

RelativeR2 = 27/77 = 0.35065 -> 規格化 (27/77) / (51/6) = 2.9805

RelativeR3 = 115/102 = 1.12745 -> 規格化 (115/102) / (51/6) = 9.5833

RelativeR4 = 363/281 = 1.2918 -> 規格化 (363/281) / (51/6) = 10.9804

ここで、IgG－CagA－を基準にしてもあまり使い道がありません。そこで、これも推定母集団に拡張してみます。

 

IgG & CagA推定母集団解析

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

IgG + CagA+

363: a4

13993: c4

14356: n14

IgG + CagA－

115: a3

5079:c3

5194: n13

IgG－CagA+

27: a2

3835: c2

3862: n12

IgG－CagA－

6: a1

2540: c1

2546: n11

小計

511: m1

25447: m0

25958 :T

R1 = 6/2546        RelativeR1 = (6/2546) / (511/25958) = 0.1197135

R2 = 27/3862     RelativeR2 = (27/3862) / (511/25958) = 0.355141835

R3 = 115/5194    RelativeR3 = (115/5194) / (511/25958) = 1.124724675

R4 = 363/14356 RelativeR4 = (363/14356) / (511/25958) = 1.284468634

ここで基準を母集団の胃がんリスク511/25958を使用します。

これは、RelativeR1を基準にすると先ほどの値とたいへん近くなっています。そこで推定母集団が有効であると考え、こちらの値を使用します。

 

ペプシノーゲン指標(胃の萎縮具合)

 

ペプシノーゲンの結果も次の様にクラス分けしてそのRisk Ratioをオッズ比から計算しています。

 

ペプシノーゲン状態のサンプル解析

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

Pepsinogen 3+

227: a4

136: c4

363: n14

Pepsinogen 2+

171: a3

141:c3

312: n13

Pepsinogen +

21: a2

18: c2

29: n12

Pepsinogen －

92: a1

216: c1

308: n11

小計

511: m1

511: m0

1022: T

RelativeR1 = 92/216 = 0.425925925 -> 1.0に規格化

RelativeR2 = 21/18 = 1.1667 -> 規格化 (21/18) / (92/216) = 2.739

RelativeR3 = 171/141 = 1.212765957 -> 規格化 (171/141) / (92/216) = 2.847

RelativeR4 = 227/136 = 1.669117647-> 規格化 (227/136) / (92/216) = 3.919

 

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

Pepsinogen + ~3+

419: a

295: c

714: n14

Pepsinogen －

92: b

216: d

308: n11

小計

511: m1

511: m0

1022: T

1.638 < RR = 1.965 < 2.356           0.271 < RD = 0.288 < 0.307

1.305 < RRD = 1.420 < 1.546        0.230 < RDD = 0.243 < 0.256

2.506 < OR = 3.335 < 4.438

0.308 < PARP = 0.403 < 0.487       0.132 < PARPD = 0.174 < 0.214

総情報エントロピー：1.8314

相互情報エントロピー：0.05153

疾患情報エントロピー：1.000

相互/総エントロピー：2.8138%

条件情報エントロピー：0.9485    

相互/疾患情報エントロピー：5.1533%

 

ペプシノーゲン状態推定母集団解析

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

Pepsinogen 3+

227: a4

6773: c4

7000: n14

Pepsinogen 2+

171: a3

7022:c3

7193: n13

Pepsinogen +

21: a2

896: c2

917: n12

Pepsinogen －

92: a1

10756: c1

10848: n11

小計

511: m1

25447: m0

25958 :T

ここで基準は再び母集団の胃がんリスク511/25958を使用します。

R1 = 92/10848    RelativeR1 = (92/10848) / (511/25958) = 0.430812681

R2 = 21/917       RelativeR2 = (21/917) / (511/25958) = 1.163322926

R3 = 171/7193   RelativeR3 = (171/7193) / (511/25958) = 1.207636909

R4 = 227/7000   RelativeR4 = (227/7000) / (511/25958) = 1.64732066

R234 = 419/15110 RelativeR234 = (419/15110) / (511/25958) =1.408639579

ペプシノーゲンが＋であるとおおよそ1.4倍のリスクとなることになります。

 

ピロリ菌感染とペプシノーゲン状態の組み合わせ

次にピロリ菌感染とペプシノーゲンの状態の組み合わせを調査しています。その集計は次の様になります。

 

ピロリ菌感染とペプシノーゲン状態のサンプル解析

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

D: H.P.－ PG+

17: a2

20: c2

37: n14

C: H.P.+  PG+

402: a4

275: c4

677: n13

B: H.P.+  PG－

76: a3

108:c3

184: n13

A: H.P.－ PG－

16: a1

108: c1

124: n11

小計

511: m1

511: m0

1022: T

RelativeRA = 16/108 = 0.148148148 -> 1.0に規格化

RelativeRB = 76/108 = 0.703703703 -> 規格化 (76/108) / (16/108) = 4.75

RelativeRC = 402/275 = 1.461818182 -> 規格化 (402/275) / (16/108) = 9.867

RelativeRD = 17/20 = 0.85 -> 規格化 (17/20) / (16/108) = 5.7375

RelativeBCD = (495/403) / (16/108) = 8.291

 

ピロリ菌感染とペプシノーゲン状態の推定母集団解析

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

D: H.P.－ PG+

17: a2

996: c2

1013: n14

C: H.P.+  PG+

402: a4

13695: c4

14097: n13

B: H.P.+  PG－

76: a3

5378:c3

5454: n13

A: H.P.－ PG－

16: a1

5378: c1

5394: n11

小計

511: m1

25447:m0

25958 :T

ここで基準は再び母集団の胃がんリスク511/25958(131.2376対10万人/年)を使用します。

RA = 16/5378 = 19.8339(対10万人/年)       RelativeRA = (16/5378) / (511/25958) = 0.151129593

RB = 76/5378 = 94.2110(対10万人/年)       RelativeRB = (76/5378) / (511/25958) = 0.717865566

RC = 402/13695 = 195.69185(対10万人/年)             RelativeRC = (402/13695) / (511/25958) = 1.491126006

RD = 17/996 = 113.7885(対10万人/年)       RelativeRD = (17/996) / (511/25958) = 0.867041551

RBCD = 495/20564

= 160.4746(対10万人/年)              RelativeRBCD = (495/20564) / (511/25958) =1.222778888

 

そして、

RBCD = 495/20564 = 0.02407 (2.4%) = 2407(対10万人)　

              = 160.475(対10万人/年)

そして、平均年齢57.3歳であることを考えそれが15年追跡調査されたのですから57.3 – 72.3歳になります。その母集団の平均胃がん罹患リスクは、(131.2376対10万人/年)でした。

地域がん登録全国推計値8)  (今後このデータをこのように呼びます) の2003年の胃がん罹患率を見ますと次の様になっています。

 

2003　胃がん罹患率(対10万人/年)

55-59歳60-64歳65-69歳70-74歳

男女計   103.2    148.1    218.4    302.3

男計　   148.4    230.5    342.4    483.5

女計　   59.2      70.4      106.5    150.5

 

これと比べてのやや低いですが、特別おかしな推定とは考えにくくなります。

 

これより、せいぜいピロリ菌感染とペプシノーゲン状態でグループ分けしたリスクの増加はせいぜい2倍程度ということになります。これは、全体の胃がんの罹患率に比べ大差ありません。多分ランダムサンプリングがうまく言っていないということになると思います。この511名のデータで母集団、日本人全体に適応することには問題があることになります。これが、相対リスクの危険なところです。必ず絶対リスクも参照したいところです。

 

そこで、かなり他で言われていることと差があるように感じますので、その他のデータも参照してみます。まず、Yoshida等　9)を見てみます。

 

この論文を参照にすると

 

ピロリ菌感染とCAGの組み合わせ

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

D: H.P.－CAG+

4: a2

29: c2

33: n14

C: H.P.+ CAG+

44: a4

1285: c4

1329: n13

B: H.P.+ CAG－

37: a3

2291:c3

2328: n12

A: H.P.－CAG－

2: a1

963: c1

965: n11

小計

87: m1

4568: m0

4655: T

IgG－CagA－を基準として(1.0)、他のRrelative Riskを次の様に計算しています。

RelativeR1 = 2/965 = 0.0020725 -> 1.0に規格化

RelativeR2 = 37/2328 = 0.01589 -> 規格化 (37/2328) x (965/2) = 7.6686

RelativeR3 = 44/1329 = 0.03311 -> 規格化 (44/1329) x (965/2) = 15.9744

RelativeR4 = 4/33 = 0.1212 -> 規格化 (4/33) x (965/2) = 58.48485

胃がん罹患リスク(追跡16年)は、48.4 – 64.3歳で

87/4655 = 116.8099 (対10万人/年)

これは、先ほどの(131.2376対10万人/年)：57.3 – 72.3歳と大きく違いません。年齢差を考えると妥当だと考えられます。

 

しかしこの結果は、前の結果とA群、B群、C群、D群の比率がかなり違いますので、その検定方法がどの程度正確化を確認するためにいろいろなデータを集めてみます。

 

A、B、C、D群の比率比較

 

 

A

B

C

D

Total

注

川崎医科大学

人間ドッグ

井上氏10)

33.816%

(2802)

40.97%

(3395)

25.21%

(2089)

8286

1995/2009

東金健康診断

11)

56%

(1504)

14%

(372)

27%

(728)

3%

(91)

2695

H23:

2011

東金男性 11)

48%

17%

31%

4%

724

 

東金女性 11)

59%

13%

25%

3%

1971

 

和歌山県男性9)

20.730%

(965)

50.01%

(2328)

28.55%

(1329)

0.7089%

(33)

4655

1994/1995

age40-59

亀田中央他12)

47.60%

(3324)

30.56%

(2134)

15.495%

(1082)

6.344%

(443)

6983

1995/1997

亀田男性12)

47.26%

(2260)

31.14%

(1489)

14.91%

(713)

6.69%

(320)

4782

1995/1997

亀田女性12)

48.34%

(1064)

29.305%

(645)

16.765%

(369)

5.59%

(123)

2201

1995/1997

亀田60未満

男性12)

49.95%

2103

31.045%

1307

13.37%

563

5.63%

237

4210

 

亀田60以上

男性12)

27.45%

157

31.82%

182

31.47%

180

14.51%

83

572

 

亀田60未満

女性12)

49.71%

971

29.24%

571

16.33%

319

4.71%

92

1953

 

亀田60以上

女性12)

37.5%

93

29.84%

74

20.16%

50

6.45%

31

248

 

東京都検診 14)

70.651%

10628

19.363%

2911

9.134%

1374

0.8642%

130

15043

2007

胃がん12

西東京市検診　15)

57.226%

8830

18.94%

2923

19.96%

3080

3.87%

597

15430

H23/H24

2011/2013

北里病院

定期健康診断16)

73.8%

1098

12.6%

188

11.8%

175

1.8%

27

1488

2011/6

E55名をA群から除外

北里40代16)

81.34%

667

10.24%:

84

7.68%:

63

0.73%:

6

820

 

北里50代16)

71.43%

400

12.50%:

70

13.75%:

77

2.32%:

13

560

 

北里60代16)

52.94%

81

20.915%: 32

21.57%:

33

4.575%:

7

153

 

北里70代16)

50.0%

5

20.0%:

2

20.0%:

2

10.0%:

1

10

 

藤枝市検診17)

58.588%

3974

18.1925%

1234

19.6815%

1335

3.538%

240

6783

H25

2013

藤枝市検診17)

39歳

88.191%

351

9.045%

36

2.764%

11

0%

0

398

 

藤枝市検診17)

40歳

85.054%

313

9.7826%

36

4.0761%

15

1.087%

4

368

 

藤枝市検診17)

45歳

80.1887%

255

13.522%

43

4.717%

15

1.572%

5

318

 

藤枝市検診17)

50歳

77.224%

217

16.726%

47

5.694%

16

0.356%

1

281

 

藤枝市検診17)

55歳

67.062%

226

20.178%

68

10.979%

37

1.7804%

6

337

 

藤枝市検診17)

60歳

62.828%

311

20.0%

99

15.1515%

75

2.020%

10

495

 

藤枝市検診17)

65歳

54.172%

448

22.491%

186

21.282%

176

2.0556%

17

827

 

藤枝市検診17)

70歳

50.906%

337

20.544%

136

25.3776%

168

3.172%

21

662

 

藤枝市検診17)

75歳

51.440%

250

18.519%

90

25.926%

126

4.115%

20

486

 

藤枝市検診17)

76歳~

48.487%

1266

18.882%

493

26.6565%

696

5.975%

156

2611

 

横須賀市検診18)

53.00%

11539

27.0026%

5879

16.999%

3701

2.999%

653

21772

H24: 2012

108胃がん

京都府 19)

22.591%

647

38.198%

1094

36.802%

1054

2.409%

69

2864

1987

 

上の調査は主に、1995年頃と2010年頃に二分化します。それは、下の図で言うと赤の線とオレンジの線に相当します。また、2008-2010の名古屋での調査では、ピロリ菌感染率 は35～39歳19.6%、40～49歳25.8%、50～59歳39.4%、60～69歳50.3%で、全体では36.4%でした。これを参照にしても年齢が若いほど、調査年が新しいほど、ピロリ菌感染率もペプシノーゲン陽性率も低くなる傾向があります。一方男女間での明確な差は見られないようです。

グループA、B、C、Dの割合の調査年代との相関を見てみます。

 

グループA、B、C、Dの相関

相関係数　0.821155079

相関係数　-0.82037

相関係数　-0.584084829

相関係数　-0.001533636

 

グループAは、年代との相関係数0.82とかなり強く相関しています。Bも-0.82とかなり強く負に相関しています。これらは、調査年度が新しいほどまた年齢が若いほどピロリ菌の感染率は下がっていますので、かなり意味のある関係でまさにそのことを表しています。一方グループCはどちらかというと負の相関を示しており、これは年々ピロリ菌の罹患率が下がっていることと傾向としては一致しますが、明確な方向性が出ているとは言えない状態です。他の要因が背後にあることを否定できません。またグループDは、相関がほぼありません。これも少し面白い関係ですが、何らかの意図があり年々ピロリ菌の罹患率が下がっていることを帳消しにしているのかもしれません。グループA、Bはデータとして安定しているが、C、Dはまだ安定していないとも言えるかもしれません。これは、ペプシノーゲンの状態だけでグループ分けすることを示唆しているのかもしれません。

そこで、試しにCDを一つのグループにしてみましょう。

 

相関係数　-0.583495703

 

明確な相関は示してはいません。しかし、オフセットがかかった回帰直線は引けそうな形をしています。これは、ペプシノーゲンの状態がピロリ菌感染有無とそれ以外の他の要因の両方に関連しているのかもしれません。また、下のグラフをみても胃がん罹患と相関しているのは間違いがないと思われますので、後ほどペプシノーゲンのみの解析を行ってみたいと思います。

 

 

21)

 

 

20)

 

上の表でも、ピロリ菌の罹患率が男女に依存しないことを見ましたがこのグラフもその考えを支持していると考えられます。

 

これを考えると、おおむね上にまとめた調査は妥当ということが出来るかと思います。

ただ、和歌山県男性の結果で、Dの割合が他と比べ半分以下となっており、それのせいもあるのか下に示す胃がん罹患に関してのDのAに比べた相対リスク比が他と比べ極端に大きくなっています。また、他の値も追跡期間が短く、罹患者が0である等まだ十分なデータがあるとは言えません。そして、本来疑似分類もあるはずですがその調査がされていません。そして、それぞれの胃がん罹患率をまとめると次の表になります。

 

ABCD群の胃がん罹患追跡調査

 

A

B

C

D

Total

追跡期間

川崎医科大学

人間ドッグ

井上氏10)

0% (0/260)

2.1%

(12/571)

5.77%

(18/312)

2.625%

(30/1143)

12年

0%

0/2802

0.21%

7/3395

1.87%

39/2089

0.555%

46/8286

14年

和歌山県男性9)

0.207%

(2/965)

1.589%

(37/2328)

3.311%

(44/1329)

12.121%

(4/33)

1.869%

87/4655

16年間

40‐59

和歌山 13)

0%

0/967

0.81%

19/2341

1.8%

24/1316

6.45%

2/31

0.97%

45/4655

7.7年間

亀田中央他12)

0.2106%

7/3324

0.2812%

6/2134

1.6636%

18/1082

2.709%

12/443

0.6158%

43/6983

4.7年

亀田男性12)

0.3097%

7/2260

0.2686%

4/1489

2.3843%

17/713

3.125%

10/320

0.79465%

38/4782

4.7年

亀田女性12)

0%

0/1064

0.3101%

2/645

0.2710%

1/369

1.6260%

2/123

0.22716%

5/2201

4.7年

亀田60未満

男性12)

0.238%

5/2103

0.0765%

1/1307

1.954%

11/563

1.688%

4/237

0.50%

21/4210

4.7年

亀田60以上

男性12)

1.274%

2/157

1.648%

3/182

3.333%

6/180

7.229%

6/83

2.972%

17/572

4.7年

亀田60未満

女性12)

0%

0/971

0.175%

1/571

0%

0/319

0%

0/92

0.051%

1/1953

4.7年

亀田60以上

女性12)

0%

0/93

1.35%

1/74

2%

1/50

6.45%

2/31

1.61%

4/248

4.7年

京都府 19)

0.31%

2/647

0.14%

15/1094

3.8%

41/1054

4.34%

3/69

2.13%

61/2864

1987-1996

10年間

Aは、ほぼ心配なし、CDが要注意との傾向は見て取れますが、とくにDはばらつきが大きく、これだけでは明確な傾向は見て取れませんので、また、追跡期間の関係か罹患者０の欄あります。そこで、もう少し詳しく見てみます。

 

March/1995-Feb/1997 12)

健康診断　亀田中央病院　&　幕張クリニック　6983/9293　4.7年追跡調査

H.pylori & CAG (胃粘膜の萎縮) 平均年齢　48.9 (SD=8.5)

A: 47.1 (8.1), B: 49.2 (8.3), C: 52.0 (8.5), D: 53.3 (8.8)

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

D: H.P.－CAG+

12: a2

431: c2

443: n14

C: H.P.+ CAG+

18: a4

1064: c4

1082: n13

B: H.P.+ CAG－

6: a3

2128:c3

2134: n12

A: H.P.－CAG－

7: a1

3317: c1

3324: n11

小計

43: m1

6940: m0

6983: T

RA = 7/3324 = 44.8063(対10万人/年)         RelativeRA = (7/3324) / (43/6983) = 0.341987798

RB = 6/2134 = 59.8217(対10万人/年)         RelativeRB = (6/2134) / (43/6983) = 0.456594232

RC = 18/1082 = 353.95446(対10万人/年)   RelativeRC = (18/1082) / (43/6983) = 2.70158621

RD = 12/443 = 576.3412(対10万人/年)       RelativeRD = (12/443) / (43/6983) = 4.398971075

RBCD = 36/3659

= 209.3352(対10万人/年)              RelativeRBCD = (36/3659) / (43/6983) =1.597767849

この調査全体の胃がん罹患率は、43/6983 = 0.131017(131.0173対10万人/年)となります。これを基準に相対比を計算しています。

一方地域がん登録全国推計値の胃がん罹患率は、2000年で

50－54歳で、男女計64.3 (万人/年)、男性88.7 (万人/年)、女性40.0 (万人/年)

となっています。これは、かなり胃がん罹患率が違います。これは、何に起因するのでしょう。地域差の可能性がありますので、千葉県のデータを全国がん罹患モニタリング集計22) によると2003年で、年齢調整平均男女計37.5(万人/年) 50－54歳で男性55.7(万人/年) 女性28.4(万人/年)

千葉県は全国平均に比べ低い方ですが、この結果は高く出ています。そして、特に目を引くのがグループDの罹患率の高さです。現状ではその違いは明白ですが原因は不明です。

これは、分割表を利用したことに起因するのかもしれません。分割表は、追跡期間がみな同じ場合に使用することが出来ます。そこで、追跡期間を明示的に取り入れて計算してみます。

 

発生率及びその比

 

リスク比、オッズ比は観察期間が同じであるとの前提で計算するものです。そこで、これらのA、B、C、D、(Ｅ)評価で中には胃がんの罹患リスクとして、発生率の比較をしているものがあります。これは最深の注意が必要な方法を使用していますのでその問題点を述べたいと思います。

 

この発生率とは、

 

胃がん罹患

人ｘ年

ピロリ菌感染

478: a

S1

ピロリ菌非感染

33: b

S0

小計

511: m1

S1+S0

 

分割表をこのように暴露総数n1、非暴露総数n0の代わりに、人数ｘ追跡時間を変数S1、S0とし、リスクa/n1、b/n0の代わりに、発生率a/S1、b/S0を求め、比や差の計算をするものです。発生率は追跡期間の時間に寄らずイベントの発生速度が一定であるとの仮定のもとに計算されています。そして発生率は、人数／(人数ｘ時間)の計算をしていますので、時間の逆数の次元をもつことを意図しています。つまり速度を表そうとしています。

しかし、これは最深の注意が必要です。なぜならばこれはリンゴの数とミカンの数を比較しているのとになるからです。これは有名な問題でエルゴード性、またはエルゴード仮説といわれるものです。それは、時間平均がサンプル平均に等しい、つまり、罹患者の時間を追って求めた結果と罹患者数を増やした結果が同じになるとの仮定に基づいています。仮説といわれている理由は証明できないからで、これは一般的に熱平衡にある定常過程では正しいとされています。しかし、非熱平衡、オープン系、非定常過程ではそれは正しくないというのが一般的です。人間は非線形、非熱平衡、オープン系の動的生き物です。

これは、言い換えれば時間を追って調査した期間のリスクの増え方と、サンプル数を増やした際のリスクの増え方が同じとの仮説に基づいています。しかし、がんの罹患率は年齢を重ねるごとに増えていきますので、サンプルを増やした場合とは明らかに違います。よって、罹患率の変化や、生命曲線の評価にこの指標をこのまま使うことは推奨できません。

 

計算することは可能ですので、一例を取り値の計算してみたいと思います。

和歌山県男性の例9)を使用してみます。

 

胃がん罹患

人ｘ年

ピロリ菌感染

81: a

40909: S1

ピロリ菌非感染

6: b

13231: S0

小計

87: m1

S=S1+S0

 

発生率IR = a/S1/c/S0 = 81/40909 /6/13231=  (81x13231) / (6x40909) = 4.366

CI = IR x exp(±1.96 x √( 1/a + 1/b)) = IR x exp(±0.8293) =10.01/1.905

IR = 4.366 (1.905/10.01)

 

この”人ｘ年”は、罹患しなかった方は、その追跡期間すべて、罹患した方は罹患するまでの時間を加えたものになりますので、下記表の人数と追跡期間をかけたものにはなっていません。しかし、詳細情報がないためその”人ｘ年”の値をそのまま使用します。

 

 

胃がん罹患

人数

追跡期間

人ｘ年

年齢

ピロリ菌感染

81: a

3657: n1

11.2: t1

40909: S1

49.8: Y1

ピロリ菌非感染

6: b

998: n0

13.3: t0

13231: S0

48.3:Y0

小計

87: m1

4655: n

11.6: t

54140: S

49.5: Y

 

これから分割表を作成し、それよりリスク比などを計算すると次の様になります。

 

胃がん罹患

胃がん非罹患

小計

ピロリ菌感染

81: a

3576: c

3657: n1

ピロリ菌非感染

6: b

992: d

998: n0

小計

87: m1

4568: m0

4655: T

RR = 3.684 (1.612/8.418): 対数標準誤差0.4216      

RD = 0.016 (0.016/0.016): 対数標準誤差0.00347

OR = 3.745 (1.629/8.608) : 対数標準誤差0.4246

人口寄与割合 = 0.678 (0.325/0.854)

 

リスク比3.684とオッズ比3.745はかなり近いですが、発症率4.366はあまり近くありません。これは主に、ピロリ菌感染者の追跡期間が11.2年であったのに対し、ピロリ菌非感染者の追跡期間が13.3年と長いせいで起こっています。かといって、追跡年数、初期年齢の違うものにリスク比をそのまま使うことも問題があります。

しかも平均年齢49歳ですので13年追跡調査しますと61歳ですので、胃がんの罹患率が急激に上がる年代ですので、エルゴード仮説つまり時間平均とサンプル平均が同じになるとは言えず、発生率を適応することに問題があります。

 

追跡調査期間の考察

 

追跡調査期間が違った場合の正しい扱い方を考察してみたいと思います。

 

胃がん罹患

人数

追跡期間

人ｘ年

年齢

ピロリ菌感染

81: a

3657: n1

11.2: t1

40909: S1

49.8: Y1

ピロリ菌非感染

6: b

998: n0

13.3: t0

13231: S0

48.3:Y0

小計

87: m1

4655: n

11.6: t

54140: S

49.5: Y

ここでピロリ菌感染者のリスクR1は、81/40909 = 198.00044 (対十万人/年)

ここでピロリ菌非感染者のリスクR0は、6/13231 = 45.34805 (対十万人/年)

ここで全体のリスクRtは、87/54140 = 160.69450 (対十万人/年)

が出発点です。

先ほど説明しましたようにこの表では、人数ｘ追跡期間が正確には人ｘ年にはなりませんが、かなり近いのでこの値を使って考察してみたいと思います。

地域がん登録全国推計値8)の2011年の胃がんの罹患率は次の様になります。

 

年齢

48

49

50

51

52

53

54

罹患率

0.00033

0.00033

0.000746

0.000746

0.000746

0.000746

0.000746

累積罹患率

0.256177

0.289135

0.363494

0.437797

0.512045

0.586238

0.660375

累積罹患率差分

0

0.032957

0.107316

0.18162

0.255868

0.33006

0.404198

累積罹患率比

1

1.12865

1.418914

1.70896

1.998791

2.288405

2.577803

55

56

57

58

59

60

61

62

0.00146

0.00146

0.00146

0.00146

0.00146

0.00236

0.00236

0.00236

0.80539

0.950193

1.094784

1.239165

1.383335

1.616099

1.848313

2.07998

0.549212

0.694015

0.838607

0.982987

1.127157

1.359921

1.592136

1.823802

3.143875

3.709119

4.273539

4.837135

5.399908

6.308513

7.214973

8.119294

 

48歳を基準とした相対累積罹患率は上のようになります。

 

ここで、ピロリ菌非感染者は、48歳から追跡がはじまり、61歳までの13年間追跡され、ピロリ菌感染者は50歳から始まり、61歳まで追跡されたことになります。ここで注意が必要なのは、それぞれが48.3 + 13.3 = 61.6と 49.8 + 11.2 = 61.0であることです。そこで、ピロリ菌非感染者の48.3歳の追跡は0.7年となります。そして、61歳の追跡は0.6年。また、ピロリ菌感染者の49.8歳の追跡は0.2年、61歳の追跡は0年となります。よって、48歳を基準に考えると、

 

S0’ = n0 x 14(1 + 0.7 x 0.0(48歳) + 0.00033(49歳) + 0.00107(50歳) + 0.00182(51歳) + 0.00256(52歳) + 0.00330(53歳) + 0.00404(54歳) + 0.00549(55歳) + 0.00694(56歳) + 0.00839(57歳) + 0.00983(58歳) + 0.01127(59歳) + 0.01360(60歳) + 0.3 x 0.01592(61歳))

   = 998 x 14 x 1.078192

   = 14050.04

S1’ = n1 x 12 (1 + 0.2 x 0.00033 + 0.00107 + 0.00182 + 0.00256 + 0.00330 + 0.00404 + 0.00549 + 0.00694 + 0.00839 + 0.00983 + 0.01127 + 0.01360 + 0.0 x 0.01592)

= 3657 x 12x 1.06863919

= 44135.01

 

リスク差の場合はこちらを使うべきと考えます。絶対頻度ですからこの罹患率の絶対差が必要です。しかし、リスク比または発生率比は、比ですのでその罹患率の比で調整されるべきと推定されますのでそれで結果を見てみましょう。

 

S0’’ = n0 x (0.7 x 1 + 1.128650337 + 1.418913522 + 1.708960244 + 1.998790666

+ 2.288404948 +2.577803251 + 3.143874503 + 3.709119411 + 4.273539182

+ 4.837135021 + 5.39990813 + 6.308513006 + 0.3 x 7.214973311)

= n0 x 43.8226

= 998 x 43.8226

= 43734.95

 

S1’’ = n1 x (0.2 x 1.128650337 + 1.418913522 + 1.708960244 + 1.998790666 + 2.288404948

 + 2.577803251 + 3.143874503 + 3.709119411 + 4.273539182 + 4.837135021 + 5.39990813

+ 6.308513006 + 0.0 x 7.214973311)

= 3657 x 37.89069

= 138566.3

修正表は

 

胃がん罹患

人数

追跡期間

人ｘ年

年齢

ピロリ菌感染

81: a

3657: n1

11.2: t1

138566.3: S1

49.8: Y1

ピロリ菌非感染

6: b

998: n0

13.3: t0

43734.95: S0

48.3:Y0

小計

87: m1

4655: n

11.6: t

182301.25: S

49.5: Y

 

これより、修正発生率は

IR’’ = a/S1’’/c/S0’’ = 81/164125.923 /6/46914.56836

= (81x46914.56836) / (6x164125.923)

= 4.260935

CI ‘’= IR x exp(±1.96 x √( 1/a + 1/b)) = IR x exp(±0.8293) =9.7646/1.8593

IR’’ = 4.2609 (1.8593/9.7646)

そして、

ここでピロリ菌感染者のリスクR1は、81/138566.3 = 58.45577171

ここでピロリ菌非感染者のリスクR0は、6/43734.95 = 13.71900505

ここで全体のリスクRtは、87/182301.25 = 47.72320541

R1/Rt = 1.2249

R0/Rt = 0.2875

R1/R0 = 4.2609

 

これは、RR = 3.693 (1.616/8.439)とOR = 3.745 (1.633/8.629)に近づきました。年齢が上がるほどこの修正が大きくなりますのでまずこの修正をすべきです。ただ、同じになったとは言い切れません。まだ他の要因があると考えられます。

 

√( 1/a + 1/b)　は標準誤差(SE)でした。今の場合、SE = 0.4231です。正確にはそのexpを取って、標準誤差(SE)は　SE = 1.5267となります。そして、標準誤差の1.96倍が95%の信頼区間となっています。これは、母比率であるIRの値が多数回(例えば100回)サンプリングして繰り返し求めた場合にその95%(95回)この信頼区間に入るということです。

つまり、IRの値の誤差がこの程度で、IRの母平均この程度ばらつくということです。これは、サンプル数が4655と多いのでばらつきが小さいですが、注目すべき点はサンプル数の√分の一の母平均の精度ということです。

 

標準偏差と標準誤差

 

例えばオッズ比ですともう少し明確になります。

81: a      3567: c  3657: n1

6: b        992: d    998: n0

でしたので、

OR = (a/b)/(c/d) = (ad)/(bc) = (81x992)/(6x3567) = 3.754

 

信頼区間(CI)　

exp(±1.96x√(1/a + 1/b + 1/c + 1/d) )

= exp(±1.96x√(1/81 + 1/6 + 1/3567 + 1/992) )

= exp (±1.96 x 0.4246)

= 2.2984/0.4351

区間推定

OR = 3.754 (1.633/8.629) : 対数標準誤差0.4246

 

標準偏差とはデータのバラつきの指標でした、±2SD (t分布の場合)の範囲にデータが入る確率95%となるのです。そこで、一般的にデータのバラつきを示したい，あるいは比べたい時は標準偏差を使うべきです。そして、標準偏差はサンプル数に基本的には依存しない値です。

一方で，標準誤差とは，母平均、母比率の値の区間推定量でした．母平均(母比率)±2SE(t分布の場合)の範囲に母平均(母比率)が入る確率が95% となります。母平均、母比率の推定をしたい，あるいは比べたいという時は標準誤差を示すべきです。そして、標準誤差はサンプル数に依存しサンプル数が多くなるほど小さな値、言い換えれば信頼区間が狭まります。今の場合は発症率IRの値を求めていますのでその値の範囲を知りたいので標準誤差を基にした信頼区間(一般的に95%)を使うのがよいと考えられます。

 

これを見ても単純な”人ｘ年”による発生率には問題があり、年代ごとの罹患率による重みづけをすべきと考えられます。

 

ハザード比解析

 

他の理由を探る為にハザードを考察してみます。ハザードとはある瞬間における発生率のことです。つまり、いま求めた発症率の瞬間の値です。多くの場合瞬間死亡率を求め生存時間の解析に使われますが、イベントは死亡でなくても発症、罹患でも使うことは出来ます。

HR:ハザード比は次の式で求められます。

HR = h(t)/h0(t)

ここで、

h(t)：ハザード関数（暴露群のハザード）

h0(t)：基準ハザード関数（非暴露群のハザード）

ハザード関数は、「追跡時間t後の瞬間発生率」

 

ハザード関数はt時の瞬間発症率ですので、ある時点からΔt後までに罹患する確率をΔtで割ったものです。

今の場合は暴露群を考えると、49.8歳がスタート地点ですのでその時点の非罹患者の人数をN(49.8)とします。そして、t時間後の非罹患者の人数をN(t)とします。t時での生存割合をN(t)/N(49.8)で表すことが出来ます。これを慣習に従いS(t)と表しておきます。そして、ハザード(関数)とは、tからt+Δtまでの条件付き罹患率、つまり非罹患者が罹患する確率ですので{S(t) – S(t+Δt)} / S(t)　のことですが、これは瞬間罹患率ではなく、Δtの間の罹患率ですのでその平均を取ります。すると

{S(t) – S(t+Δt)} /{ S(t) Δt}

これが瞬間罹患率、つまりハザードです。数学的にはΔt→0の極限を取って微分形式にして、(dS(t)/dt)/S(t)となります。そして、これは罹患していない人数を数えていますので減少していくため、一般的にはマイナスを付けて

h(t) = ‐(dS(t)/dt)/S(t)

これがハザードの定義です。

ここで、{S(t) – S(t+Δt)} /{ S(t) Δt}に戻りますと、

{S(t) – S(t+Δt)} /{ S(t) Δt}

= {N(t)/N(49.8) – N(t+Δt) /N(49.8)} /{ N(t) Δt /N(49.8) }

= {N(t) – N(t+Δt) } /{ N(t)Δt}

 

これこそ瞬間発症率です。つまり、瞬間発症率はハザードと同じことになります。よって、これによりハザード(比)を求め、コックス比例ハザード回帰モデルに持ち込むこともできます。しかし、結局は発症率を使用しますので、エルゴールド性が満たされない限り今見た発症率の計算と同じ問題を内蔵しています。ハザードに変数変換しても何の解決にはならないことになります。

 

ここで発生率をIとおいて、

I = {N(t) – N(t+Δt) } /{ N(t)Δt} より、

IΔt = {N(t) – N(t+Δt) } /N(t)        これは、発症確率

IΔt N(t)= {N(t) – N(t+Δt) }          発症人数

となります。

 

実際に計算してみましょう。しかし、いつ罹患したかのデータがありません。そこで、全期間で発症率、ハザードが同じであるとして求めてみます。

暴露群に対して

I = {N (49.8) – N (61.0)} / {N (49.8) x 11.2}

= (3657 – 3576) / (3657 x 11.2)

= 0.001977616

h(t) ={N(t) / N(49.8) – N(t+Δt) / N(49.8)} /{N(t) / N(49.8) x Δt}

    = {N (49.8) / N (49.8) – N (61.0) /N (49.8)} / {N (49.8) x11.2 / N (49.8)}

    = {1 - 3576 / 3657} / {11.2}

    = 0.001977616

 

非暴露群に対して

I = {N (48.3) – N (61.6)} / {N (48.3) x 13.3}

= (998 – 992) / (998 x 13.3)

= 0.000452031

h(t) ={N(t) / N(48.3) – N(t+Δt) / N(48.3)} / {N(t) / N(48.3) x Δt}

    = {N (48.3) / N (48.3) – N (61.6) / N (48.3)} / {N (48.3) x 13.3 / N (48.3)}

    = {1 – 992 / 998} / {13.3}

    = 0.000452301

 

よって、追跡期間で一定の発症率、ハザードとした場合の値は

I(暴露)   =  H(暴露)  = 0.001977616

I(非暴露) =  H(非暴露) = 0.000452301

これより、ハザード比、発症率は

I(暴露)/ I(非暴露)

= H(暴露)/ H(非暴露)

= 0.001977616 / 0.000452301

= 4.372345657

これは、先ほど求めた下の罹患率にたいへん近い値になりました。

IR = 4.366 (1.905/10.01)

 

ハザード比修正

 

これも先ほどのように年の長さをデータの年代別罹患率で修正してみましょう。

暴露群は、37.89069年、非暴露群は43.8226年となります。

I(暴露) = (3657 – 3576) / (3657 x 37.89069)

= 0.000584557

I (非暴露)= (998 – 992) / (998 x 43.8226)

= 0.00013719

 

ハザード比 = 4.260930097

これも先ほどの下の修正発生率に近いものになりました。

IR’’ = 4.2609 (1.8593 / 9.7646)

 

またハザードの修正値は比を取らないので足し算の時間修正を採用すると

I(暴露) = (3657 – 3576) / (3657 x 12 x 1.06863919)

= 0.00172722

I (非暴露)= (998 – 992) / (998 x 14 x 1.078192)

= 0.000398287

これらの修正を実際の罹患者は罹患までの時間、非罹患者は全追跡期間で罹患率ベースに時間、または人ｘ時間を修正すれば実際のリスクの比に近づくと考えられます。それは、

3.684と4.2609の間の時間と推測されます。

 

これらをまとめると、

R1/Rt = 1.2249

R0/Rt = 0.2875

R1/R0 = 4.2609

ここでピロリ菌感染者のリスクR1は、おおよそ198 (対十万人/年)

ここでピロリ菌非感染者のリスクR0は、おおよそ 45 (対十万人/年)

ここで全体のリスクRtは、おおよそ161 (対十万人/年)

R1 – Rt = 27 (対十万人/年)、R0 – Rt = -116 (対十万人/年)

これよりピロリ菌感染による胃がんのリスクはおおよそピロリ菌の非罹患の4倍になり、それはだいたい1.6％の絶対頻度の増加と考えられます。そして、ピロリ菌感染者の胃がん罹患率は、全体の胃がん罹患率の1.2249倍で、ピロリ菌非感染者の胃がん罹患率は全体の胃がん罹患率の0.2875倍ですのでこれを採用します。よって、ピロリ菌感染者は、平均罹患率に27 (対十万人/年)を加え、ピロリ菌非感染者は116 (対十万人/年)を引いて使用することになります。

残念ながらABCDのグループ分けでの同様な計算をするデータが見つかりませんので、ABCDグループ分けしているものを集めてみます。

 

ピロリ菌感染とペプシノーゲン状態の組み合わせ結果のまとめ

 

                            Ohata等13)       Yoshida等9)       Watabe等12)     Mizuno等19)              Sasazuki等5)

   発表年            2004                    2014                    2005                    2009                    2006

   サンプリング年

1994-1995           1994-1995         1995-1997           1987                    1990/1993

実施場所        和歌山                 和歌山                 千葉                     京都                     日本各地

   総調査人数     4655                    4655                    6983                    2859                    99808

   男/女               4655/0                 4655/0                 3320/2260           1011/1848          47525/52283

   年齢               48.3 (平均)          48.3(平均)           48.9 (平均)          ≥ 35                     57.4

   追跡期間 (年) 7.7 (平均)            16.0(平均)           4.7 (平均)            10 (最大)              15.0

　 最終年齢        56.0(平均)           64.3(平均)           53.6(平均)           不明                     72.4

   HP陽性率(%) 78.6                     78.6                     46.1                     75                        73.5

   PG陽性率(%) 28.9                     29.26                   21.8                     39.2                     58.2

   胃がん罹患人数          

45                        87                        43                        61                        1681

   胃がん罹患率 (/10万人)           

967                      186.9                   616                      213                      196.85

胃がん罹患率 (%)       

0.967                   1.869                   0.616                   2.13                     1.9685

胃がん罹患率

(10万人/年)  125.6                   116.8                   131.0                   213.0                   131.24

胃がん罹患率(%/年)    

0.1256                 0.1168                 0.131                   0.213                   0.131

A:B:C:D(%)    21:50:28:0.7        21:50:29:0.7        48:31:15:6.3        23:38:37:2.4        21:21:54:3.9

HP+                                 

   総人数            3657                    3657                    3216                    2148                    19475

   胃がん罹患人数          

43                   81                        24                     56                        478

   胃がん罹患率 (/10万人)           

1175.8                 2214.93               746.27                 2607.08               2454.43

   胃がん罹患率 (%)       

1.1758                 2.21493               0.74627               2.607                   2.4544

胃がん罹患率

(10万人/年)  152.705               138.43                 158.78                 260.71                 163.63

胃がん罹患率(%/年)    

0.1527                 0.13843               0.15878               0.2607                 0.1636

リスク比

(/全体胃がん罹患率)    

1.2158                 1.1852                 1.2121                 1.2240                 1.2468

PG+                                  

   総人数            1347                    1362                    1525                    1123                    19491

   胃がん罹患人数          

26                   48                        30                     44                        418

   胃がん罹患率 (/10万人)           

1930.215             3524.23               1967.21               3918.08               2144.58

   胃がん罹患率 (%)       

1.9302                 3.524                   0.1967                 3.918                   2.144

胃がん罹患率

(10万人/年)  250.677               220.264               418.556               391.81                 142.97

胃がん罹患率(%/年)    

0.251                   0.220                   0.4186                 0.3918                 0.1430

リスク比

(/全体胃がん罹患率)    

1.2158                 1.1886                 3.195                   1.8395                 1.089

 

HP-/PG-                                         

   総人数            967                      965                      3324                    647                      5394

   胃がん罹患人数          

0                     2                          7                       2                          16

   胃がん罹患率 (/10万人)           

-                           207.25                 211                      309                      296.6

   胃がん罹患率 (%)       

-                           0.20725               0.211                   0.309                   0.2966

胃がん罹患率

(10万人/年)  -                           12.95                   44.9                     30.9                     19.8

胃がん罹患率(%/年)    

-                           0.01295               0.0449                 0.0309                 0.0198

リスク比

(/全体胃がん罹患率)    

-                           0.111                   0.343                   0.145                   0.151

HP+/PG-                                        

   総人数            2341                    2328                    2134                    1094                    5378

   胃がん罹患人数          

19                        37                        6                          15                        76

   胃がん罹患率  (/10万人)

                            812                      1589                    281                      1371                    1413

   胃がん罹患率 (%)       

0.812                   1.589                   0.281                   1.371                   1.413

胃がん罹患率

(10万人/年)  105.45                 99.3                     59.8                     137.1                   94.2

胃がん罹患率(%/年)    

0.10545               0.0993                 0.0598                 0.1371                 0.0942

リスク比

(/全体胃がん罹患率)    

0.8396                 0.850                   0.4565                 0.6437                 0.718

HP+/PG+                                       

   総人数            1316                    1329                    1082                    1054                    14097

   胃がん罹患人数          

24                     44                        18                     41                        402

   胃がん罹患率 (/10万人)

                            1824                    3311                    1664                    3890                    2935

胃がん罹患率 (/%)      

1.824                   3.311                   1.664                   3.89                     2.935

胃がん罹患率

(10万人/年)  236.9                   206.9                   354.0                   389                      195.7

胃がん罹患率(%/年)    

0.2369                 0.2069                 0.3540                 0.389                   0.1957

リスク比

(/全体胃がん罹患率)    

1.886                   1.771                   2.702                   1.826                   1.491

HP-/PG+                                        

   総人数            31                        33                        443                      69                        5394

   胃がん罹患人数          

2                        4                          12                      3                          16

   胃がん罹患率(/10万人)

                            6452                    12121                  2709                    4348                    1760

   胃がん罹患率 (/%)      

6.452                   12.121                 2.709                   4.348                   1.760

胃がん罹患率

(10万人/年)  837.9                   757.56                 578.4                   434.8                   113.8

胃がん罹患率(%/年)    

0.8379                 0.75756               0.5764                 0.4348                 0.1138

リスク比

(/全体胃がん罹患率)    

6.671                   6.486                   4.4                       2.041                   0.867

 

これを、みると先ほど求めた平均胃がん罹患率160.69450 (対十万人/年)は、よい線を言っていることが言えるかと思います。また、ピロリ菌感染による全体の胃がん罹患率に対するリスク比は、1.2158、1.1852、1.2121、1.2240、1.2468とかなり安定しています。

グループAは、その全体での割合とその罹患率がかなり相関しています(相関係数0.881)、つまりグループAに関しては、その傾向を上記の表から見てとれることになります。そして、それは罹患率が低く心配の必要性がほとんどないということです。

それに対しペプシノーゲン状態の全体の胃がん罹患率に対するリスク比は、1.2158、1.1886、3.195、1.8395、1.089とばらつきが大きく、ピロリ菌感染以外にも関連する要因があると推測されます。それもあり、ピロリ菌感染とペプシノーゲン状態の組み合わせつまり、ABCDのグループごとの結果もあまり安定していません。特に、グループDは下のようにかなりばらついています。

 

グループD結果のばらつき

 

                                                                      13)         9)           12)         19)         5)

グループD胃がん罹患率(対10万人/年)      837.9     757.6     576.4     434.8     111.9

グループDリスク比(/全体胃がん罹患率)     6.671     6.486     4.4         2.041     0.85250

 

特に、5)の例と他の3(4)例で大きく違っています。年代的にはだいたい似通っており(1995年頃)、3(4)例が1県でのデータであったのに対し、こちらは多数県(岩手県二戸、秋田県横手、茨城県水戸、新潟県長岡、長野県佐久、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県中部、沖縄県宮古)で行われております。Nested Case-Control Studyを行っているため、母集団について明確なことは述べられませんが、グループDが胃がん罹患の最終ステップであるとの仮定を説明したいとのバイアスがかかっているのかもしれません。このように考えると、このピロリ菌感染とペプシノーゲン状態によりグループ分けするA,B,C,Dに基づく予防は少々時期が早すぎると言えるでしょう。もう少しデータが整うの待った方がよいでしょう。この結果も先ほどの相関係数からの考察と同じ方向性となりました。

グループAに関しましては、データは安定していますのでその罹患率はおおよそAの割合１％当たり1人(対十万人/年)となります。

 

これらの結果を比較すると、上で議論して点以外にも似通った部分と違っている部分があります。

似通った箇所

サンプリング年、

違うもの

年齢、A:B:C:D比率、男女比、追跡期間、ピロリ菌陽性率、ペプシノーゲン陽性率

                      

これらの差異があるので、これをメタ解析することは推奨されません。元データをこれらの違いを考慮するならばまだ少しは有意な結果が導き出せる可能性はありますが、ただ単にオッズ比のメタ解析で全体のオッズ比を出してもほとんど意味が見られません。ピロリ菌感染が最大の要因なのに、それの陽性率が大きく違います。女性の方がはるかに胃がんの罹患率が低いにも関わらず、男女構成に大きな違いがあります。明確に年齢が上がれば罹患率が上がるのに最終年齢が大きく違います。そのあたりを考慮しないメタ解析には意味がありません。

 

それではこれらのデータから内を推論すればよいでしょうか。

すべてに共通して言えることは何でしょう。

HP-/PG-はたいへん胃がんの罹患率が低くなります。

1)と3)は、追跡年代が似ています。そして、年あたりの胃がん罹患率も0.1256と0.131と似ています。そして、1)の方が最終年齢、追跡期間が長い、男性ばかり、そして胃がんの罹患率の高い和歌山県で行われたにも関わらず、低くなっています。どのように解釈するのがよいでしょう。

しかもその16年追跡したリポートの方が、更に0.1168と罹患率が低くなっています。

これの原因と考えられるのはこのグループのDの割合が他と比べて多いことです。     

このあたりを探る為に都道府県別の胃がん罹患率のデータを参照してみます。

 

がん罹患率地域差

 

全国がん罹患モニタリング集計22)によると：

胃がん罹患率　県別(対10万人)

2003                    男女       男          50-54     55-59     60-64     女          50-54     55-59              60-64

全国                     103.3     118.4     89.0       148.4     230.5     55.9       36.8       59.2              70.4

全国(年齢調整)    53.4       81.1       -             -             -             31.2       -             -             -

千葉                     55.5       74.4       55.7       78.2       135.5     36.5       28.4       48.3              48.6

千葉(年齢調整)    37.5       55.6       -             -             -             22.8       -             -             -

京都                     54.9       72.8       44.1       74.9       130.2     38.3       22.1       26.3              38.0

京都(年齢調整)    32.7       49.1       -             -             -             20.0       -             -             -

和歌山                 -             -             -             -             -             -             -             -            

和歌山(年齢調整) -            -             -             -             -             -             -             -            

2009                    男女       男          50-54     55-59     60-64     女          50-54     55-59              60-64

全国                     96.2       136.1     79.2       145.4     226.1     58.2       35.6       50.0              70.1

全国(年齢調整)    51.0       78.9       -             -             -             27.9       -             -             -

千葉                     74.9       104.0     61.2       96.8       174.2     46.0       30.8       44.8              63.2

千葉(年齢調整)    41.9       62.9       -             -             -             24.0       -             -             -

京都                     89.6       124.7     71.9       111.6     182.2     57.2       25.6       44.2              76.0

京都(年齢調整)    46.0       70.6       -             -             -             26.6       -             -             -

和歌山                 130.8     184.6     68.0       174.3     253.9     83.1       34.0       90.7              91.6

和歌山(年齢調整) 59.7      90.5       -             -             -             35.7       -             -            

2010                    男女       男          50-54     55-59     60-64     女          50-54     55-59              60-64

全国                     98.2       139.1     75.1       147.5     236.0     59.3       34.2       52.4              73.2

全国(年齢調整)    51.5       79.7       -             -             -             28.2       -             -             -

千葉                     72.6       100.8     49.9       101.1     161.2     44.7       25.7       33.9              52.2

千葉(年齢調整)    39.2       59.2       -             -             -             21.9       -             -             -

京都                     -             -             -             -             -             -             -             -             -

和歌山                 137.4     193.3     85.9       145.8     336.7     87.8       43.6       95.5              141.8

和歌山(年齢調整) 63.1      95.6       -             -             -             37.0       -             -            

2011                    男女       男          50-54     55-59     60-64     女          50-54     55-59              60-64

全国                     103.3     144.9     74.6       146.0     236.0     63.9       33.9       53.4              77.4

全国(年齢調整)    52.6       80.4       -             -             -             29.5       -             -             -

千葉                     71.1       99.7       35.2       96.1       146.7     42.7       35.9       44.1              48.5

千葉(年齢調整)    37.3       56.4       -             -             -             20.8       -             -             -

京都                     102.6     145.7     77.8       127.7     207.3     62.9       30.0       42.0              78.9

京都(年齢調整)    52.0       80.5       -             -             -             28.8       -             -             -

和歌山                 128.7     180.7     71.3       131.3     243.7     82.6       37.9       57.6              96.9

和歌山(年齢調整) 56.0       85.5       -             -             -             32.8       -             -             -             

 

2011      男女  年齢調整  50-54    55-59     60-64

全国       103.3     52.6       54.2       99.3       155.2    

千葉       71.1       37.3       27.9       67.0       97.7      

京都       102.6     52.0       53.4       83.3       140.2    

和歌山   128.7     56.0       54.0       93.4       167.5    

 

死亡 都道府県別(対人口10万人)

年 都道府県 性別 年齢 部位 年齢調整率 標準誤差 年齢調整率(世界人口) 標準誤差 標準化比(全国=100)

2009-2013 千葉県           男性      全年齢 胃          27.234 0.32      18.129 0.223               100.591

2013       千葉県             男性      全年齢 胃          26.335 0.684    17.462 0.48               104.958

2011       千葉県             男性      全年齢 胃          26.323 0.705    17.472 0.492               96.475

2003       千葉県             男性      全年齢 胃          34.407 0.936    22.991 0.633               99.095

1995       千葉県             男性      全年齢 胃          49.834 1.358    33.771 0.911               109.99

2009-2013 京都府           男性      全年齢 胃          26.797 0.494    18.01    0.352               97.585

2013       京都府             男性      全年齢 胃          24.461 1.026    16.4      0.734               96.997

2011       京都府             男性      全年齢 胃          27.748 1.126    18.587 0.799               100.172

2003       京都府             男性      全年齢 胃          33.007 1.325    22.174 0.921               95.824

1995       京都府             男性      全年齢 胃          44.804 1.755    30.123 1.197               99.139

2009-2013 和歌山県        男性      全年齢 胃          29.979 0.827    20.411 0.608               106.41

2013       和歌山県         男性      全年齢 胃          29.964 1.846    20.25    1.346               113.999

2011       和歌山県         男性      全年齢 胃          28.694 1.834    19.576 1.384               100.707

2003       和歌山県         男性      全年齢 胃          37.101 2.155    25.558 1.563               104.098

1995       和歌山県         男性      全年齢 胃          45.572 2.556    31.118 1.785               100.976

2009-2013 千葉県           女性      全年齢 胃          10.19    0.192    6.866    0.142               100.826

2013        千葉県           女性      全年齢 胃          8.671    0.388    5.775    0.287               94.131

2011        千葉県           女性      全年齢 胃          10.877 0.444    7.276    0.326               106.896

2003        千葉県           女性      全年齢 胃          13.463 0.544    9.024    0.388               99.973

1995        千葉県           女性      全年齢 胃          18.413 0.72      12.75    0.517               99.435

2009-2013 京都府           女性      全年齢 胃          10.365 0.292    7.007    0.216               101.689

2013        京都府           女性      全年齢 胃          9.015    0.574    6.042    0.422               98.207

2011        京都府           女性      全年齢 胃          10.269 0.656    6.949    0.487               99.636

2003        京都府           女性      全年齢 胃          14.891 0.853    10.28    0.637               106.783

1995        京都府           女性      全年齢 胃          19.337 1.01      13.493 0.747               102.622

2009-2013 和歌山県        女性      全年齢 胃          11.739 0.492    8.023    0.375               111.004

2013        和歌山県       女性      全年齢 胃          9.59      0.987    6.517    0.792               107.136

2011        和歌山県       女性      全年齢 胃          11.195 1.019    7.492    0.744               108.478

2003        和歌山県       女性      全年齢 胃          11.681 1.038    7.932    0.767               90.159

1995        和歌山県       女性      全年齢 胃          19.284 1.454    13.107 1.053               107.446

 

まず目につくのは年度によって、また地域によりかなりばらつきがあることです。男女間の差異もかなり大きくなっています。女性は年々胃がん罹患率が減っていますが、男性は必ずしも一様に減っているとも言えません。下の図がそのイラスト表示です。千葉は平全国均より低く、京都と和歌山は全国平均より高くなっています。

この傾向と先ほどの比較は明確には関連がありません。やはりその他の要因が大きいことになります。現状では、Sasazuki等5)の131.240 (10万人/年)を男女共通としては考慮に入れるところでしょうか。ただ、前にも述べましたが本来男女別に解析をし、男女別にその値を求めるべきですが現状適切なデータが見当たりません。その点でもABCDグループによるリスク判断はまだその時期ではないと入れるのでしょうか。

 

 

ペプシノーゲンの影響の解析、そしてピロリ菌除去の影響、及びその他の胃がんの要因の解析を順々に加えていく予定です。

 

 

ピロリ菌除菌とペプシノーゲン状態の関係

 

ピロリ菌除菌の効果は健常者での明確なデータがありません。早期胃癌の内視鏡治療後2次癌の予防には明確な効果24) が出ていますが、それは健常者のピロリ菌除菌による効果には当てはめることが出来ません。そこで次の例にペプシノーゲンの状態とピロリ菌除菌の組み合わせで効果を見ているものがありまます。この例をペプシノーゲン単独での効果とともに解析してみたいと思います。

Wakayama prefecture

1994/Apr – 1997/Mar

 

23)

PG I LEVEL  70 mg/1 AND PG I/II RATIO  3.0

 

Group with H. pylori infection

Group with H. pylori eradication

Total    

PG test

negative

PG test

positive

Total

PG test

negative

PG test

positive

Subjects

3656.0

2327.0

1329.0

473.0

318.0

155.0

Person-years

35101.5

22436.0

12665.5

4263.0

2918.0

1345.0

Age y [mean (SD)]

49.8

(4.6)

49.5

(4.7)

50.4

(4.3)

49.6

(5.5)

49.3

(5.6)

50.9

(5.5)

Current smoking n (%)

2087.0

(57.1)

1242.0

(53.4)

845.0

(63.6)

262.0

(55.4)

169.0

(53.1)

93.0

(60.0)

Alcohol use, n (%)

2432.0

(66.5)

1479.0

(63.6)

953.0

(71.7)

310.0

(65.5)

204.0

(64.2)

106.0

(68.4)

Follow-up y [mean(SD)]

9.6

(1.0)

9.6

(1.1)

9.5

(1.1)

9.1

(1.4)

9.2

(1.3)

8.7

(1.6)

PG I, ng/ml [mean(SD)]

62.0

(32.5)

75.8

(31.1)

37.9

(17.5)

74.2

(34.6)

92.5

(57.0)

36.8

(18.2)

PG II, ng/ml [mean(SD)]

20.0

(11.0)

20.3

(12.4)

19.5

(7.8)

23.1

(14.6)

24.9

(16.5)

19.5

(8.4)

PG I/II [mean(SD)]

3.4

(1.6)

4.3

(1.4)

2.0

(0.7)

3.4

(1.5)

4.1

(1.3)

1.9

(0.7)

Total gastric cancer

Age y

[mean(SD)]

50.8

(3.9)

50.6

(4.3)

50.9

(3.6)

53.4

(5.5)

50.5

(3.5)

55.3

(6.4)

Size of the cancer,

mm [mean(SD)]

12.8

(8.3)

14.4

(10.4)

11.4

(5.3)

12.0

(5.7)

12.5

(3.5)

11.7

(7.6)

Depth of cancer invasion

(m:sm:mp)

41:9:5

15:7:3

26:2:2

5:0:0

2:0:0

3:0:0

Follow-up, y

[mean(SD)]

5.9

(2.5)

4.3

(2.4)

5.6

(2.5)

6.0

(1.0)

5.0

(0)

6.7

(0.6)

Cases/incidence rate

55/157

25/111

30/237

5/117

2/69

3/223

Intestinal gastric cancer

Cases/incidence rate

36/103

14/62

22/174

4/94

1/34

3/223

Diffuse gastric cancer

Cases/incidence rate

19/54

11/49

8/63

   1/23

1/34

0       

IR(total) = 60/39364.5 = 0.01524215 (152.4216対10万人)

IRHP+ = 55/35101.5 = 0.001566884 (156.6884対10万人) IRRHP+ 1.0280

              CI = IRRHP+ x exp (±1.96 x √(1/55 + 1/60)) = 1.028 x exp(±0.365887878) = 1.482/0.713

IRHP-  = 5/4263.0 = 0.001172882 (117.2883対10万人) IRRHP- 0.7695

IRPG+ = 33/14010.5 = 0.002355376 (235.5376対10万人) IRRPG+1.5453

IRPG- = 27/25354 = 0.00106492 (106.4921対10万人) IRRPG- = 0.6987

IRHP+PG+ = 30/12665.5 = 0.002369 (236.8639対10万人) IRRHP+PG+ = 1.5540

IRHP-PG+ = 3/1345 = 0.002240 (223.0483対10万人)

IRRHP-PG+ = 1.4634     IRR HP-PG+HP+PG+= 0.9417

IRHP+PG- = 25/22436.0 = 0.0011129 (111.2941対10万人) IRRHP+PG- = 0.7302

IRHP-PG- = 2/2918 = 0.0006854 (68.5401対10万人)

IRRHP-PG- = 0.4497 IRRHP-PG-HP-PG+ = 0.6159 CI = 2.600/0.1459

 

論文では、次の2タイプ、PG Negative HP infectionとPG Negative HP eradicationがLog-Rank testを用いて有意差があるとしています。そのKamplan-Meierカーブを見ますとLog-Rank Testを当てはめるにはかなり無理のある形をしています。そこで、まず感染率を求めてみしょう。

Type

Cases

Persons-years

PG Negative HP eradication

2

2918

PG Negative HP infection

25

22436

IR = (2/2918) / (25/22436) = 0.6151

CI = 0.6151 x exp(±1.96√(1/2 + 1/25)) = 2.5969/0.1457

こちらでは、1.0をまたいでいますので有意差なしということになります。

Type

胃癌罹患

非罹患

Total

PG Negative HP infection

25

2302

2327

PG Negative HP eradication

2

316

318

RR = 0.407/1.708/7.178

OR = 0.404/1.716/7,279

これを見ても統計的有意差はないとなるでしょう。

罹患率としては(68.5401対10万人)と (111.2941対10万人) 全体の(152.4216対10万人)罹患率より、管理低くなっています。

Type

Cases

Persons-years

PG Negative

33

14010.5

PG Positive

27

25354

IR = (33/14010.5) / (27/25354) = 2.2118

CI = 2.2118 x exp(±1.96√(1/33 + 1/27)) = 3.6782/1.3300

この様にペプシノーゲンの状態に統計的な有意差があると考えられます。

 

ピロリ菌感染とペプシノーゲン状態の相対リスク

 

この結果はいろいろな状態の相対リスクを考えるのには参考となりますので解析してみしょう。

IR(total) = 60/39364.5 = 0.01524215 (152.4216対10万人)

ベースはこの全体の罹患率です。

先ほどの解析の平均131.240 (10万人/年)よりやや高いようですが、論文にもあるように和歌山県は2005年、日本で5番目に胃癌の死亡率が高いということなのでこの値は妥当な値ではないでしょうか。

ピロリ菌罹患のリスクは次の様になりますので、

IRHP+ = 55/35101.5 = 0.001566884 (156.6884対10万人)

ピロリ菌罹患による相対リスクは

(比)IRHP+/IR = 1.028　 (差)4.2668 (対10万人)

同様にピロリ菌除菌の相対リスクは

(相対リスク)117.2883対10万人　(相対リスク)　(比) 0.7695 (差)-35.1333

ペプシノーゲン＋

(相対リスク)235.5376 対10万人　(相対リスク)　(比) 1.5453 (差)83.116

ペプシノーゲン－

(相対リスク)106.4921対10万人　(相対リスク)　(比) 0.6987 (差)-45.4295

ピロリ菌感染　ペプシノーゲン－

(相対リスク)111.2941対10万人　(相対リスク)　(比) 0.7302 (差)-41.1275

ピロリ菌感染　ペプシノーゲン＋

(相対リスク)236.8639対10万人　(相対リスク)　(比) 1.5540 (差) 84.4423

ピロリ菌非感染　ペプシノーゲン－

(相対リスク)68.5401対10万人　(相対リスク)　(比) 0.4497 (差) -83.8815

ピロリ菌非感染　ペプシノーゲン＋

(相対リスク)223.0483対10万人　(相対リスク)　(比) 1.4634 (差) 70.6267

これらの相対リスクは予防に使えそうです。

 

Normal（正常胃）→Gastritis（胃炎）→Atrophy（委縮）→Intestinal Metaplasia（腸上皮化生）→Dysplasia（異形成）

この順序がIntesinalタイプの胃がんになる工程でありこれにピロリ菌は大きくかかわっているといわれています。そして、早期胃癌の内視鏡治療後2次癌の予防には効果があるといわれています。何かまだ要因が足りないと考えるのがよいでしょう。今後の研究が待たれます。

 

ペプシノーゲンの効果を15年間追跡調査した結果を見てみましょう。25)

 

まず、ペプシノーゲンの陽性率を見てみましょう。

サンプル年度は1995年です。陽性率は男性754/2861 = 26.354% (45.1±6.5) 女性379/24.674% (44.7±6.4)となっています。21)の情報と比べると、場所が特定できない上での話ですが、高い部類に属しますが、妥当な線というところでしょう。

 

罹患人数

観察人年

平均追跡期間

平均年齢

陽性

18

5415.5

4.8±0.7

51.4±4.5

陰性

9

15859.5

4.8±0.5

49.6±6.1

陽性

27

9673.5

9.2±1.9

51.5±4.4

陰性

16

29909.5

8.5±2.4

50.8±5.9

陽性

29

12562.5

12.7±3.7

51.9±4.5

陰性

31

41322.5

11.1±4.3

52.8±5.5

5年全体

IR = 27/21275 = 126.910  IR+ = 18/5415.5 = 332.379 IR- = 9/15859.5 = 56.748

IR+/IR- = 332.379/56.748 = 5.857 CI = exp (±1.96 x √(1/18 + 1/9)) = 2.2259/0.44925

2.631< IR5= 5.857 <13.037

10年全体

IR = 108.632 IR+ = 27/9673.5 = 279.113 IR- = 16/29909.5 = 53.495

IR+/IR- = 279.113/53.495 = 5.2176 CI = 5.2176 * exp (±1.96 x √(1/27 + 1/16)) =9.6833/2.811

2.811< IR10 = 5.2176 < 9.6833

15年全体

IR = 111.348 IR+ = 29/12562.5 = 230.846 IR- = 75.017

IR+/IR- = 230.846/75.017 = 3.077 CI = 3.077 * exp (±1.96 x √(1/29 + 1/31)) =5.1054/1.8544

1.8544 < IR15 = 3.077 < 5.1054

これに対し論文ではコックス比例ハザードモデルを使用しておりその値は

2.19<4.98<11.29 2.49<4.71<8.89 1.64<2.76<4.65と近い値となっています。これは下図のように比例ハザードが成り立っているのに近い形をしているせいであると考えられます。



25)より転写

 

最近はこのグラフのようにカプランマイヤーカーブに信頼区間を示さないものが多いですが、サンプル数が大きく減っており、その要因が追跡不可能なのかイベント発生なのかはっきりしません。信頼区間を付けるべきです。このグラフは恐らく後半の結果はサンプル数の減り方から見て、かなり信頼度にかけると予想されます。

IR5 = 126.910     IR10 = 108.632   IR15 = 111.348   これらは前の131.240 (10万人/年)と比べて妥当な線と考えられます。一方、５年後が一番高く、１０年あたりから落ち着いてくる理由はなんでしょう。年齢を重ねますので追跡期間が長いほど罹患率が高くなりそうなものですが、そのようにはなっていません。

上の図からロストをカウントすると

陰性       3250(初期サンプル数) – 31(胃がん罹患) – 1748(最終サンプル数) = 1471 (45.3%)

陽性       1133 – 29 – 365  = 739 (65.2%)

この割合を考えると追跡不能の割合が多く、特に陽性の10年から15年の間のロストが多く、そのことはカプランマイヤーカーブに明確に現れており、1133名中合計29名の罹患であるのに、段差が非常に大きい、これから推定するにかなり15年以降は信頼区間が広がってお信頼が置けないのではと推定されます。

 

この結果と前出の5－6年の調査を考慮しますと、現状ある程度はっきりしているのは5年間程度ということになるでしょう。

つまり、ペプシノーゲン陽性・陰性で予測可能なのはその後5年程度となると考えれれます。

 

参考文献


1) ペコリーノがんの分子生物学　第2版 2014/09 メディカルサイエンスインターナショナル

2) 人口動態統計（厚生労働省大臣官房統計情報部編）

3) 北海道大学　浅香正博氏　研究報告

4) Effect of Helicobacter pylori infection combined with CagA and pepsinogen status on gastric cancer development among Japanese men and women: a nested case-control study.

Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006 Jul;15(7):1341-7.

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http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16835334?dopt=Abstract

5) Leslie E. Daly

American Journal of Epidemiology　Vol. 147, No. 8, Confidence Limits Made Easy: Interval Estimation Using a Substitution Method

6) 薬剤疫学研究入門　そのデザインと解析　(日本製薬工業協会)

7)  疫学研究における交絡と効果の修飾　佐藤俊哉氏 統計数理(1994) 42巻 1号　83-101

8) 地域がん登録全国推計値

Matsuda A, Matsuda T, Shibata A, Katanoda K, Sobue T, Nishimoto H and The Japan Cancer Surveillance Research Group. Cancer Incidence and Incidence Rates in Japan in 2008: A Study of 25 Population-based Cancer Registries for the Monitoring of Cancer Incidence in Japan (MCIJ) Project. Japanese Journal of Clinical Oncology, 44(4): 388-396, 2013

9) Int J Cancer. 2014 Mar 15;134(6):1445-57. doi: 10.1002/ijc.28470. Epub 2013 Oct 3.

Cancer development based on chronic active gastritis and resulting gastric atrophy as assessed by serum levels of pepsinogen and Helicobacter pylori antibody titer.

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http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24009139

10) 井上和彦氏：Gastro-Health Now, 2010

11) 山口氏等　調査研究ジャーナール2013 Vol.2 No.1

12) Watabe H, Mitsushima T, Yamaji Y, Okamoto M, Wada R, Kokubo T, Doi H, Yoshida H, Kawabe T, Omata M. Predicting the development of gastric cancer from combining Helicobacter pylori antibodies and serum pepsinogen status: a prospective endoscopic cohort study. Gut. 2005;54:764–76

13) Int J Cancer. 2004 Mar;109(1):138-43.

Progression of chronic atrophic gastritis associated with Helicobacter pylori infection increases risk of gastric cancer.

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14) ご存じですか？がんリスク検診(ＡＢＣ検診)　日本健康増進財団

15) Gastro-Health Now, 2013 第28号　永田氏

16) Gastro-Health Now, 2014 第33号  竹澤氏

17) Gastro-Health Now, 2014 第32号  花岡氏

18) Gastro-Health Now, 2014 第31号  松岡氏

19) Mizuno S, Miki I, Ishida T, Yoshida M, Onoyama M, Azuma T, Habu Y, Inokuchi H, Ozasa K, Miki K, et al. Prescreening of a high-risk group for gastric cancer by serologically determined Helicobacter pylori infection and atrophic gastritis. Dig Dis Sci. 2010;55:3132–3137

20) 日本消化器病学会

21)　静岡厚生病院

22) 全国がん罹患モニタリング集計

がん情報サービス

http://ganjoho.jp/professional/statistics/monita.html

 

23)

Yanaoka K etc.

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Eradication of Helicobacter pylori prevents cancer development in subjects with mild gastric atrophy identified by serum pepsinogen levels.

 

24)

Fukase K etc.

Lancet. 2008 Aug 2;372(9636):392-7. doi: 10.1016/S0140-6736(08)61159-9.

Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial.

 

25)

Okuno etc

A 15-year cohort study on the incidence of gastric cancer and the validity of testing based on serum pepsinogen screening test

http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/handle/2297/33119