リスク低減のための乳房切除術
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乳がんの発症リスクを低減させる予防策として、欧米ではかなり実施されている予防的乳房切除について、考えてみたいと思います。
まず、今までの話を簡単にまとめておきたいと思います。
一般の方が、BRCA1/BRCA2遺伝子異変で乳がんになる割合は、生涯で1万人に37名、1000人中おおよそ4名です。そして、乳がんで死亡する割合は一万人中140名、1000人中14名で、その中でBRCA1/BRCA2遺伝子異変で乳がんが原因で死亡する割合は、生涯で1万人におおよそ7名であります。
そして、乳がんの60〜70%をしめる、女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けた、エストロゲンが乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体と結びつき、がん細胞の増殖を促す、エストロゲン陽性(ER+)の乳がんには、化学的予防薬であるタモキシフェンは、ある程度有効であります。この1000人中4名の乳がんの原因、言い換えれば1000人中、994名は、関係ないことになります、を改善する可能性の為に、遺伝子検査を受けて、なおかつ予防的乳房切除をするかという問題です。
また、乳がんの現任の5~10%程度が、このBRCA1/BRCA2遺伝子異変が原因で、言い換えれば、90%以上の乳がんは他の要因で発症すると言うことです。
さて、予防的乳房切除を予防策とするのには、かなり抵抗があります。まさに、現在の主流の西洋医学、部品の組み立てが全体である、の象徴的な処置であり。全体は部品の寄せ集めではないとの東洋的立場に立てば、考えさせられる内容ですが、事実は事実として知っておくべきかと思います。
この予防的乳房切除に関する報告は存在しますが、完全二重盲目試験のものはありません。その中である程度自然と思える結果が見て取れるもので且つ追跡期間が長いものに次のものがあります。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9887158
Efficacy
of bilateral prophylactic mastectomy in women with a family history of breast
cancer.
この報告も、かつて指摘したように、相対リスクを取って、90%以上の改善があるとの論調になっているため、絶対リスクに換算してその内容を以下にまとめます。
USのMayo
Clinic(メイヨークリニック)で1960−1993年の間に予防的乳房切除を行った639名の女性の家族歴を調査して、214名の高リスク(両親、兄弟、子供に一定数以上の乳がん患者が認められるグループ)と425名の中リスク(高リスクグループほどではないが一定数の乳がん患者が家族に認められる:伯母、いとこ等)グループに分けて、平均14年の追跡調査を行って予防的乳房切除の効果を確認した。
この高リスク214名は、追跡調査期間に3名(1.4%)が乳がんとなり、その姉妹の285名の内38名(13.3%)が乳がんとなったのに比べ、90%以上の改善だと言っています。これは、絶対リスクに置き換えると、予防的乳房切除を行った100名中1.4名が(1000人中14名)が乳がんとなり、予防的乳房切除を行っていないグループは100名中13名(1000人中130名が)の割合が乳がんになります。
また、死亡したのは、予防的乳房切除を行った214名中2名で、100名中0.9名が(1000人中9名)であるとしているが、この285名の姉妹については言及していない。
代わりに、他の調査からの推定値で、100名中4名であるとしている。
中リスクの場合は、予防的乳房切除を行った425名中4名(0.9%)が乳がんとなり、乳がんによる死亡は、0であるとしている。が、実際には、全639名中、30名が死亡しており(高リスクか中リスクかは明確にしていない)、その関連性を明確にすべきであると考えられる。
中リスクの場合も他の調査からの推定値により、予防的乳房切除を行った100名中乳がんとなったのは、1名、死亡は0名、予防的乳房切除を行っていない100名中乳がんとなったのは9名、死亡は2.4名としている。詳細な表とすると
女性タイプ |
|
予防的乳房切除なし |
予防的乳房切除あり |
改善絶対リスク |
オッズ比 |
1人の効果を実現に何人必要か |
高リスク |
乳がん |
133 (13.3%)
** |
14 (1.4%) |
119
(11.9%) |
9.5 |
8.4 |
|
死亡 |
49 (4.9%)
* |
9 (0.9%) |
40 (4%)
* |
5.4 * |
25 |
中リスク |
乳がん |
88* (8.8%) |
9 (0.9%) |
79 (7.9%) |
9.8 |
13 |
|
死亡 |
24* (2.4%) |
0 (0%) |
24 (2.4) |
無限 |
42 |
注1:数字は1000名中何人(カッコ内は割合%)
注2:*はすべて他のデータからの推定値
注3:**は姉妹のデータ
姉妹の死亡者数等の追跡調査を実施すれば、いわゆる関連のあるデータ(姉妹間のデータ)として統計処理が行えたと思われるが、このあたりがコホート研究の難しさかもしれない。
データの取り方に疑問点はあるが、いろいろなことが見て取れる。
1.予防的乳房切除をしても乳がんの発生を完全に抑えられるわけではなく、リスクを減らすだけである。
2.高リスクグループ、中リスクグループに乳がん発生率に大きな差はない。
3.高リスク、中リスクの女性の乳がんの発症は、予防的乳房切除によって抑えられるが、予防的乳房切除の多く(10名中9名程度)は、本来その必要がなかったかもしれない。
4.通常の一般人(高リスクでも中リスクでもない女性)は、これより更に予防的乳房切除のメリットはすくないと推定される。
判断は読者がこの内容よりすべきであるが、知らない幸せ(遺伝子検査もしない、予防的乳房切除もしない)が、十分あり得ると思われる。
(続く)